新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「はい。通常会話は、完全に理解出来るレベルです」
通常会話は、完全に理解出来るレベルって、ネイティブのような感じなんじゃ……。
「そんな語学力が、何故必要なんだ。そんなことをしたら、社内が帰国子女だらけになるようなものだろう」
反対する人というのは、とことんどんな場合でも反対するんだ。他人の意見を取り入れたり出来ないのだろうな。
「我が社に限らず、ここ何年かの企業の採用状況を見てみますと、海外事業や体制のために外国人採用を率先しています。それは、単純に人件費云々の問題ではなく、今後、ベンチャー企業のM&A。つまり、企業の合併、買収をする際に、語学の取得を入社採用条件に義務づけることによって、より強化出来るからです。無論、共同経営の場合に至っても、同じ考えです。合併、買収、並びに共同経営の相手企業とのコミュニケーションは、やはり重要だと考えます。尚、この起業に関する経費に関しましては、別途またご相談させて頂きたいと思いまして、今期の予算の中にはまだ組み込んでおりませんので、ご了承下さい。各部署の数字は、この件を加味した形の予算案となりますが、何かご質問はございますでしょうか」
高橋さんの問い掛けに、この時点で誰も挙手する人はいなかった。
私でもわかっていた。もう自分の部の予算が、どうのこうのと言っていられないレベルの話をされていたのだから。
「では、以上です」
そう言うと、高橋さんは静かに席に着いた。
それと同時に、私も肩の力が抜けていた。自分が発表しているわけでもないのに、思いっきり肩に力が入っていたようだ。おかげで首の回りがやけに重たく感じられる。
その後、総務からの話があったが、それほど緊迫した内容ではなかったので、落ち着いて話に耳を傾けられた。
「では、最後に社長からお話がございます」
「今日の会議は、とても収穫のある内容だったと思う。この収穫を実りあるものにするためにも、各取締役は内容を今一度熟読の上、それぞれ調べたいこともあるだろう。今週の金曜日に結論を出したいと思うので、もう一度集まって貰いたい」
「金曜日! 早過ぎませんか?」
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