新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「ううん。誰も来ないから、大丈夫」
「この前、どうしたの?」
「この前って?」
「社内旅行の時、何で途中で居なくなっちゃったのよ。部屋に行ったんだけど、居なかったから誰かと飲んでたの?」
社内旅行のあの晩、近藤さんに言われたことを思い出した。
それで、そのあと中原さんと飲んで酩酊して……。
「う、うん」
「ハイブリッジと?」
「ち、違うわよ。全然違うから」
「その焦りMAXは、ますます怪しいなあ」
「だから、それ違うから。本当に神田さんの勘違いだって。同じ担当の中原さんと飲んでたの」
「なーんだ。つまんない。ハイブリッジと飲んで、盛り上がって、それでお部屋行って合体!」
が、合体って。
「神田さん。声が大きいって」
「いや、陽子の声の方がデカいから」
「そ、そう?」
神田さんは、力強く頷いている。
「もう、変なこと言わないで」
「陽子。真っ赤だよ?」
「そ、そんなことないわよ。茶化さないでよ」
「あら。ムキになるところをみるとお?」
「神田さん!」
「ごめん、ごめん。でも、そうだったら良かったのにと思っただけよ」
神田さん……。
そうだ。神田さんなら何となく私より人生経験豊富そうだから、わかるかもしれない。
「ちょっと、聞いてもいい?」
「うん」
何だかわからないが、神田さんが好奇心一杯の目をきらきらさせながら私を見ている。
「もし……もしもよ? 独り言のように、生き方が雑だなって言ってる人が居たら……。あっ。もし、仮にそういう人が居たとしてよ? その生き方が雑っていうのって、その人自身のことを言ってると思う? それとも、傍に居た人に対して言ってると思う?」
「ええっ? どうなんだろう……。うーん。その時の状況にもよると思うけど、でも独り言のように言ったんだったら、傍に居る人というより自分に対して言ってるんじゃないのかなあ。確信はないけどね」
「やっぱり、そう思う?」
やっぱり、高橋さんは自分に対して言ってたんだ。
あの高橋さんが、生き方が雑?
「何? ハイブリッジが、そう言ってたんだ」
< 167 / 210 >

この作品をシェア

pagetop