新そよ風に乗って 〜時の扉〜
エッ……。
「ち、違うわよ。例えば、例えばの話。だから気にしないで」
「陽子。あのさ……」
「な、何? 本当に、例えばの話だから」
危ない、危ない。神田さんに、バレそうだった。
「ハイブリッジってさあ。暗い過去とか、何か引きずってる気がするんだよね」
「えっ?」
暗い過去とか、何か引きずってるって……何?
「そ、それ、どういう意味?」
「だってさあ、陽子。考えてみてよ。あのSPIの中でもレベル高いハイブリッジなのに、女の影が何でひとつも見えないの?」
エッ……。
「普通さ、あれだけのSPIでお洒落で仕事も出来る男子だったら、絶対女の噂とか何処からともなく流れて来そうなもんだけど、ハイブリッジに関しては全くないじゃない? 確かにまだ入社して間もない私達だけど、聞く人、聞く人みんな知らないって言うんだよね。ハイブリッジが入社してから今まで、一度もそういう噂も目撃もないって絶対おかしいでしょう?」
な、何か凄いな。神田さんは、何処からそういう情報を誰に聞いているんだろう? 私なんて、会社に来て言われたことをこなすだけで精一杯で、そんな余裕もないから不思議で仕方がない。
「で、でも、休みの日とかに彼女に会ったりしてるのかもしれないじゃない?」
もし、それが本当だったら、ちょっと哀しい気もするけれど……。
「いや、あれはいないね」
神田さん。
「この、まゆみ様の目に狂いはない」
「な、何でそう言い切れるの? 聞いたわけでもないでしょう?」
「機会があったら、聞いてみたいとは思ってる」
「ええっ! だ、駄目よ。そ、そんなこと聞いたりしたら……」
「聞いたりしたらあ?」
神田さんが、テーブル越しに私の顔を覗き込んでいる。
「な、何でもない」
「アッハッハ……。でも、あれはいない。もし女がいたら、もうちょっと砕けてるはず」
「砕けてる?」
高橋さんが、もっと砕けてる?
「そう。何て言うのかなあ……。ハイブリッジはあのルックスだから、それなりに経験もしてるだろうし、確かに女性の扱いは慣れてそうなんだけど、何かこう……近寄りがたいところがあるんだよね」
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