新そよ風に乗って 〜時の扉〜
そして、高橋さんはそのまま座ろうとしていた席に座った。
「ほらね。誘ったところで、遠慮して来ないじゃない」
「神田さん」
「まあ、端っから期待はしてなかったけどね。きっと私達の話の邪魔しちゃ悪いって、気を利かせたんだと思う。そういうとこ、SPIの鏡だよな。空気読んで、出しゃばった行動は控える。まさにそれだわ。もし、それを物足りないという女子が居たら、それは先読みの出来ない女ね」
「さ、先読み?」
「だって、そうでしょう? 男も女も、出しゃばりは嫌われる。何でかって言ったら、気を遣えないから。周りに気配りが出来る人は、決してそういうことはしない。だから出しゃばりは、気配りが出来ない人ってことだから。いつも、いつも男子が会話に加わってても大丈夫ってことはないじゃない。女子だけで、大事な話をしたい時だってある。その先読みが出来ない女は、その場だけ楽しければ的行動しか出来ないから、それがわからないのよ」
何だか神田さんは、とても同期とは思えない。凄く年上に感じられるというか、恋愛経験も豊富そうだし……。
「でも、気になるんだよなあ……」
「えっ? 何が?」
神田さんが高橋さんの方をジッと見ながら、そう呟いた。
「ハイブリッジ。ご飯食べ終わった後、ずっとさっきから携帯画面見てるんだけど、あれって多分、メール見てその返信打ってるんだよ」
「メ、メールの返信ぐらい、誰だって休憩時間にするでしょう?」
そう言いながら、チラッと高橋さんの方を見ると、確かに右手で携帯を持ちながら左手で画面にタッチしている。
「でも、メール如きにあんな真剣な表情する? メール打つ時、陽子もあんなに真剣な顔してる?」
そう言われてみれば……。
「なーんか、引っ掛かるなあ。ハイブリッジの行動は、いつも謎だわ」
「もしかしたら、大事なメールなのかもしれないじゃない?」
「でも、そんな大事なメールだったら、パソコンで下書きとか普通するでしょう」
あっ……。
もう一度、気になって高橋さんの方を見ると、ずっと見ていたからだろうか。視線を感じた高橋さんが、不意にこちらを見たので目が合ってしまった。
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