新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「朝の掃除と机の雑巾がけといい、何でもかんでも新人に押しつける業務の割り振り、いい加減改善しようとは思いませんか? 人員削減された今、全てが今まで通りといった通常理念は捨てないと、この先行きの景気如何では、その付帯業務とやらに縛られたくないなど、違う意味で人員が減った場合、真っ先にお鉢が回ってくるのは自分自身なんだということが、まだわかりませんか?」
「そんな先のことまで考えられないわよ。ただでさえ、現状が困窮しているっていうのに、そこまで悠長に考えてなんていられないでしょう? みんな、生き残ることで精一杯なの。女子社員だって何時、リストラされるかわからないんだから、せめて仕事の処理能力をあげておかなければ……」
そこまで、会社は緊迫しているの? 知らなかった。でも、そんな風には感じられないのは、私だけなのかな?
「自分アピールですか? 自分さえ良ければ、それでいいんですか。だから面倒なことは、全て新人任せにすればいいと? 随分、ご都合主義ですよね」
「何ですって? 失礼な言動、撤回しなさい。先輩に向かって、何という口の利き方」
「勤続年数は、確かに黒沢さんの方が二年ほど長いかもしれませんが、あまり言いたくはないですが、役職的には私の方が上です。黒沢さんが勤続年数による先輩に向かってとおっしゃるのでしたら、サラリーマン社会に於いて、上位に対してその態度は……ということになりますが、如何ですか?」
折原さんの方が、黒沢さんより上。黒沢さんの方が先輩なのに、折原さんの方が上位? いったい、これは……。
「こんな女々しい言い合いなど、したくないですよ。それこそ、時間の無駄です。低次元の争いをするよりも、もっと大事なこと、やらなければいけないこと、新人に手本を示すことの方が重要だと思います。用度管理に関して、見直しを図らなければいけない時期に来ています。慣例に沿ってという考え方は、この際、捨ててしまった方がベストですよ」
恐らく、仕事中は眼鏡を掛けているのだろう。黒縁の眼鏡の角を持ちながら言った折原さんの言葉に、黒沢さんは言い返すことは出来なかったが、烈火の如く怒っている感情が頬の紅潮で見て取れる。
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