新そよ風に乗って 〜時の扉〜
しかし、折原さんが黒沢さんより上だなんて、いったいどういうことなのだろう? わからないことばかりで、事の発端の当事者であるにも関わらず、目の前で起こっているこの事態の収束が出来るのだろうか。果てしなく続いてしまうのではないかと、ハラハラしながら気配を消して固唾を呑んで見守っていた。
「そこら辺で……」
高橋さん。
黙って黒沢さんと折原さんの会話を聞いていた高橋さんが、座ったまま二人の会話を制した。
「でも、高橋さん。決められた業務は、たとえ会社の方針が変わろうと新人に与えられる付帯業務として代々受け継がれてきたことですから、温故知新ではないですが守らなければいけないと思います」
「私は、何も反対だとはひと言も言っていない」
「高橋さん。それじゃ、矢島さんにお任せしていいですよね?」
胸の前で拍手をするように二度ほど手を叩くと、黒沢さんは勝ち誇ったように折原さんに、どう? とばかりに胸を張って見せた。
「今のお二人の会話を聞いていて、改善しなければいけない問題があるようだし、経費的な見直しも用度に関してはしなければならないと思います。また、絶対数の少ない新入社員の付帯業務の内容も、通常業務との比率から見ると負担が多過ぎるし、他にも覚えることも多々あるわけですから、今の場合を取ってみても、用度管理=新人業務という取り決めも見直しが必要ですね」
「見直しって、何を見直すんですか?」
黒沢さんが、高橋さんに凄い勢いで聞き返している。
「それは、私達が口を挟む問題ではないわね」
折原さんが黒沢さんを制して言うと、何か言い掛けた黒沢さんだったが、周りに聞こえるように大きく溜息をつくと自分の席へと戻っていった。
「高橋。後は、よろしく」
「ああ」
折原さんに返事をした高橋さんは、手帳に何かを書き込みながら途中でペンの動きを止め、私の机の上に山積みされた用度品の数々を黙って暫く見ていたが、その後、何処かに電話を掛けていた。
「矢島さん。取り敢えず、その机の上の用度品を片付けよう」
「はい。あっ、大丈夫です。一人で出来ますから」
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