新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「一概に仕事といっても、それは大まかな総称であって、本来の任務である本務。心身を働かせて励む勤労。賃金や報酬を得るために働く労働。他人のために行う労務やサービスの役務。受け持っている担当や役目の職務など、成し遂げる業績や作り出すといった行動を指すものを仕事という言葉で位置づけているのだが、俺にとっての仕事とは、職務であり本務とも言える。この二つを基盤として、勤労や労働、役務が付いてくる感じだ」
高橋さんにとっての仕事は、職務であり任務。私にとっては、仕事とは何なのだろう。
「矢島さんは、まず、職務を自分のものにすることを最優先に考えて欲しい」
職務を自分のものにすると言われも、まだ何もわかっていないのに、どうすれば……。
「受け持っている担当、つまり会計監査の担当内容を覚えることからだな」
「はい」
「会計監査という名前の意味、由来を家に帰ったら調べてみてくれ。どんなものなのかが少しはわかるかもしれないから。実務とは少し異なることも多いかもしれないが、基本は同じだ」
「はい」
「それと、もっと自分に自信を持って欲しい」
高橋さん……。
その言葉、もう本当に、数え切れないほど何度もまわりの人から言われたことがある。自信を持ちたくても持てない自分がとても嫌いだ。でもこればかりはどうする事も出来ない性格というか、欠点なのだ。
「さっきも言ったが、職務を自分のものにするというのは、矢島さん。ものには必ず名称がある。矢島さんも矢島陽子という名前があり、俺にも高橋貴博という名前がある。自分の名前には、親に聞けばわかるとおり、何かしら由来がある。存在を示すものが名前だったり名称だったりすることには、必ず意味がある。こんな話しを知っているかな。国の名前にも、それぞれ意味があったりする。ジンバブエという国は石の上という意味があったり、エクアドルは赤道。コスタリカには豊かな海岸という、それぞれの国の名前にはそんな意味が込められたりしている。それと同じように、会計監査という職務にも意味があり、その職務を自分のものにするということは、矢島さん自身が自分に自信を持たない限り、つまり、受け持っている担当に自信が持てなければ職務は遂行出来ないということなんだ」
「高橋さん。私にはそんな自信など、持てないです」