新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「二人で片付けた方が早いし、用度品のストックが何処にあるかなんて知らないでしょう?」
手伝おうとしてくれた中原さんを断ろうとしたが、そう切り返えされてしまい、結局、手伝ってもらってしまった。
「すみません。ありがとうございました」
「散々、綺麗事並べたって、所詮、一人じゃ何も出来ないのよね」
黒沢さんが用度品の片付けが終わって戻ってきた私に、すれ違いざま耳打ちされた。
「すみません」
「えっ? 何が?」
中原さんに聞き返されたが、今の言葉は黒沢さんに向けたものだったと説明する事が出来なかった。
仕事って、本当に大変だ。組織の中で秩序を乱したり他人に迷惑を掛けたりすると、いずれそれが自分に戻ってくるようなことを本で読んだことがあったが、実際の職場はもっとその本の中に出て来たケースや内容よりも濃く、人の感情も嵩を増して降り掛かってくるように感じる。自分の職務を全うすると誓ったはずなのに、会社に行くと仕事もそうだが、それ以上に人間関係に疲れている自分が情けなくて仕方なかった。

「ちょっと、矢島さん。この前、私がお願いした用度品の管理。貴女にお願いしたはずなのに、何で折原がやってるのよ?」
「えっ?」
「惚けないで。ノートも渡したはずよね? そのノートは、どうしたの?」
「はい。持っています。ですが……」
用度品に関して、どう発注してよいのかもわからず、ノートを何度も繰り返し読んで用度品の入っているストック場所を確認していたが、いつもストックの量は足りていたので何も発注をまだしてはいなかった。
「貴女が折原にやらせているんだとしたら、大したもんね」
「そんな……。そんなことないです。折原さんが用度品の発注をして下さってたんですか?」
「何、私に聞いてるのよ。自分で確かめてみればいいでしょう?」
折原さんが、用度品の発注をしてくれていた。用度品の管理を私の代わりにしてくれていたってことだ。
慌てて折原さんの席に向かうと席に折原さんの姿はなく、事務所の中を見渡すと、コピー機のところにその姿はあった。
折原さん……。
社会に出て、二週間。働き始めたばかりの何もわからない私をいつも庇ってくれる折原さんが、またもや知らないところで用度品の管理を代わりにやってくれていた。
「折原さん」
前からコピーを終えて戻ってきた折原さんに声を掛けると、優しく微笑みながら近づいてきてくれる。
「あの……」
「どうしたの? そんなに慌てて」
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