新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「用度品の管理なんですが、お忙しいのに折原さんがやって下さっていたなんて、知らなくて……」
「ああ、あれ? あれは、高橋に頼まれて暫定的にやってるだけよ。別に、大変なことでも何でもないから気にしないで」
「でも……」
「ちょっと、急ぎのコピーだから。悪いけど、また後で」
「あっ、はい」
高橋さんに頼まれたと言っていた。暫定的に……。でも、何故、高橋さんは折原さんに?  しかし、その謎はすぐに解けることとなった。翌週、経理部のミーティングが行われ、今年度からの予算改定案に盛り込まれるものの概要と、直接、私達に関わってくる予算改定の内容が説明された。
「よって、経費の振り分けも各担当部署管轄になったものもあり、用度品に関する経費は各所属に割り当てられた事務消耗品費の中で、更に担当ごとに予算を振り分けますので、用度品の管理も各担当で管理して下さい。またコピー用紙に関しては、担当に配布されているコピーカードの度数制限を設けておりますので、従来通り、その度数に基づいた各月持ち分がコピーの予算と解釈して下さい。尚、詳細は各担当長にメールで送信してありますから、各自で確認して下さい。以上、終わります」
部長の説明が終わり、事務所内にいた社員は一様に経費の無駄をなくすためには仕方ないといった表情を浮かべながら、それぞれの席へと戻っていったが、会計の席に戻ると先に戻っていた高橋さんが、黒沢さんと何か話しをしていた。
「各担当に用度の管理を任せるというのは、高橋さんの提案ですよね? 部下の業務を減らすためなら、ご自身の地位をも利用される。何故、そこまでされるのか、理解に苦しみます」
「ご理解頂けないのでしたら、黒沢さんが納得して頂けるまでご説明させて頂きますが」
普段は物腰穏やかな高橋さんだが、声こそソフトなままだけれど、毅然とした態度で黒沢さんに対応している姿を見て目のやり場に困っていると、不意に中原さんと視線が合ってしまい、静かに席に座に着いたが何も出来ずに思わず下を向いてしまった。
「先ほど、部長がおっしゃられたことは、社内決定事項として社長の承諾も得られているものです。一社員の業務内容云々、などというレベルで決定した事項ではありません」
「でも、高橋さんが提案されたんですよね?」
黒沢さん。どうして、そこまで高橋さんを目の敵にするのだろう。それは、私が絡んでいるから? だとしたら……。
「確かに、私が提案した経費削減項目の一つです。ですが、この案には黒沢さんや折原さんからもヒントを頂きました」
黒沢さんや折原さんからもヒントを? どういうこと?
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