新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「先日、矢島さんの机に山と積まれた用度品のストックを見て、伝票・ボールペン・ノート・ファイルその他、沢山の未使用にも関わらず事務消耗品費として計上されたのかと思ったら、その数々の用度品をお金に換算した時、どれほどの額になるのだろうと。中には何年も使われていないような、黄ばんだファイルなどもありました。物と捉えればそれまでですが、これをお金と同一だと考えるとどうでしょう? もし、自分の財布からお金を出して購入していたとしたら、どう捉えるでしょう。とかく人は、他人の財布の中身のことまで親身になって心配などしません。しかしながら、自分の懐が痛むような使い方を好んでするかといったら、それはその必然性と自分の懐具合とを天秤に掛け、無駄を省こうとするのが人の常です。それと同じように会社の経費も考えられたら、一人、一人の心掛け次第で目に見えて成果を把握することは出来なくとも、日頃からの蓄積がプラスにもマイナスにも働きます。ただ闇雲に経費削減といったところで削れない部分も多く、限界もあります。ですが、各自の意識改革をしていけば、それは不可能を可能にする力も兼ね備えていると思うのです」
高橋さん。この人の物事に対する考え方は、自分にとって……ではなく、会社にとって……が一番なんだ。
「……」
黒沢さんは黙ったまま、高橋さんを睨んでいる。
「高橋さん。三番に広報からお電話です」
「はい」
その時、中原さんが高橋さんへの電話を知らせた。
「黒沢さん。会社の再建へのヒントをせっかく下さったのですから、是非とも……」
「わかりました!」
捨て台詞のように言って去っていった黒沢さんを見ながら、高橋さんは電話に出ていた。
「お電話代わりました。高橋です」
高橋さんの言葉が頭の中で繰り返されている。
「会社の経費も考えられたら、一人、一人の心掛け次第で目に見えて成果は把握することは出来なくとも、日頃からの蓄積がプラスにもマイナスにも働きます」
私もその一人なんだ。お給料を貰って働いている以上、それに見合った働きをしなければいけない。でも、今は言われたことだけをこなしている毎日。いったい何から始めたら……。
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