新そよ風に乗って 〜時の扉〜
そんな格好いいことを考えながらも、実生活では毎朝、起きるだけでも精一杯だった。規則正しい生活で、それはそれでとても良いことなのだが、就職が決まってから半年以上は怠惰な学生生活を送ってしまっていたツケが、今頃、まわってきたようだ。それと共に疲れやすく、疲れが出ると困ったことも起きてしまう。仕事から帰ると、なるべく早く寝るようにはしているが、社会人三週間目に入り、肉体的疲れも出てきたのと、社内の対人関係にも気を遣い、精神的にも疲労が蓄積されてきていた。週末だけでは補いきれないので、贅沢にゆっくり時間を気にせず寝られるゴールデン・ウィークが待ち遠しい。社会人は、本当に大変だ。
ゴールデン・ウィークが来るのを心待ちにしながら、まだ火曜日で、あと三日も行かなければいけないと生憎の雨も手伝って足取りも重く、憂鬱な気分で電車に揺られていた。
「矢島さん。この書類を六部ずつ、コピーしてきてくれるかな」
「はい」
高橋さんからコピーカードを受け取り、書類を持ってコピー機のところに向かうと、ちょうど折原さんがコピーをしていた。
「どう? 少しは、この生活に慣れた? あれっ? 何だか疲れた顔しているけど、大丈夫?」
コピーをしながら話し掛けてくれた折原さんが、私の顔を覗き込んだ。
「はい。大丈夫です。今朝、寝坊しちゃって時間がなくて、ちゃんとお化粧出来てないからかもしれません」
「そう。それならいいんだけど、あまり頑張り過ぎないようにね」
「ありがとうございます」
折原さんは、いつも優しくて頼りになる先輩だな。私も来年には、もう少し……。
「早くしてよ」
「あっ、すみません。すぐに」
後に並んでいた人に催促されて急いでコピーを始めたが、後の人のきつい香水の匂いが鼻腔を刺激して思わず咽せてしまった。
「あら、風邪? うつさないでよね」
あろうことか、その後から黒沢さんの声が聞こえ、慌てて振り返ってお辞儀をする。
「す、すみません。ゴホッ……ゴホッ……」
何とか、咳を止めようとすればするほど苦しくなって、余計、咳き込んでしまう。
お願いだから、早く止まって。
「そう言えば、矢島さんって総務の某課長のコネで入ったんだってね」
嘘。何故、黒沢さんが知っているの?
「えっ? そうだったの?」
ゴールデン・ウィークが来るのを心待ちにしながら、まだ火曜日で、あと三日も行かなければいけないと生憎の雨も手伝って足取りも重く、憂鬱な気分で電車に揺られていた。
「矢島さん。この書類を六部ずつ、コピーしてきてくれるかな」
「はい」
高橋さんからコピーカードを受け取り、書類を持ってコピー機のところに向かうと、ちょうど折原さんがコピーをしていた。
「どう? 少しは、この生活に慣れた? あれっ? 何だか疲れた顔しているけど、大丈夫?」
コピーをしながら話し掛けてくれた折原さんが、私の顔を覗き込んだ。
「はい。大丈夫です。今朝、寝坊しちゃって時間がなくて、ちゃんとお化粧出来てないからかもしれません」
「そう。それならいいんだけど、あまり頑張り過ぎないようにね」
「ありがとうございます」
折原さんは、いつも優しくて頼りになる先輩だな。私も来年には、もう少し……。
「早くしてよ」
「あっ、すみません。すぐに」
後に並んでいた人に催促されて急いでコピーを始めたが、後の人のきつい香水の匂いが鼻腔を刺激して思わず咽せてしまった。
「あら、風邪? うつさないでよね」
あろうことか、その後から黒沢さんの声が聞こえ、慌てて振り返ってお辞儀をする。
「す、すみません。ゴホッ……ゴホッ……」
何とか、咳を止めようとすればするほど苦しくなって、余計、咳き込んでしまう。
お願いだから、早く止まって。
「そう言えば、矢島さんって総務の某課長のコネで入ったんだってね」
嘘。何故、黒沢さんが知っているの?
「えっ? そうだったの?」