新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「そうですか。ちょっと、胸の音を聞かせて下さいね」
そう言うと、看護師がブラウスのボタンを外し、先生が聴診器をあてた。
「少し、大きく深呼吸してみて下さい」
息を吸い込み辛くて苦しかったが、二、三回、大きく深呼吸をした。
「はい。楽にしていいですよ。レントゲンの写真では、特に肺炎とかにはなっていないのですが、気管支が何らかの形で誘発されて、発作が起きたんだと思います。まだ少し辛そうだから、呼吸が楽になるように点滴をしましょう。今、用意して貰いますから、また後で来ますね」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃ、点滴の用意をして来ますから、少しお待ち下さい」
ブラウスのボタンを止めてくれた看護師が、処置室の隅の方に行って点滴の用意をしているのが見えた。その間も、部屋の中で繋がっている別の処置室の患者の点滴の残量を見たり、採血の準備をしたりしている看護師達の慌ただしく行き交う姿が視界に入って来る。医師や看護師の仕事も、本当に大変そうだ。
「ちょっと、チクッとしますよ」
点滴の準備が出来ると、先ほどの医師がまた姿を見せて点滴針を左腕に刺した。
痛い……。
けれど、その痛みは一瞬で、テーピングをされて針を刺している部分を固定して貰うと、その後は痛みを感じなかった。
高橋さんは、どうしているのか気になっていたが、点滴をしながらウトウトしてしまったらしく、目が覚めた時には、点滴の量は半分ぐらいに減っていた。しかし、目覚めたのは自然にではなく、脈拍が速くなっているのか、心臓がドキドキして気分が悪くて目が覚めたのだった。
どうしよう……。
ナースコールした方がいいのだろうか。でも、我慢していれば良くなるかもしれない。そう思い直して、少しの間、我慢していたが、心臓がドキドキするのは一向に治らず、気分の悪さは酷くなるばかりだ。忙しい看護師さんに申し訳ないけれど、ナースコールしようかな。もう少し……。
「また、会えちゃったね」
えっ?
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