新そよ風に乗って 〜時の扉〜
もう、後戻りは出来ない。
何かに掴まりたくて、ギュッと掛けてあった毛布を上から両手で掴んだ。
「……」
黙ったまま、私の瞳を捉えた高橋さんの瞳には、私が映っている。
「私、会社に入る時に、持病があることを隠して入社しました」
「……」
今、自分が発した言葉がリバウンドして来るのを、唇を噛みしめながら耐えていた。後悔してはいけない。何時かは、言わなければいけなかったのだから。けれど、高橋さんは先ほどから何も言ってくれない。呆れて言葉も出ないのかな。そう思うと、居たたまれない気持ちでいっぱいになってしまった。
「今まで黙っていて、申し訳ありませんでした」
それだけ言うのが精一杯で、後は何も言えぬまま高橋さんから目を逸らし、天井を見つめていた。
「矢島さんが、会社に提出した履歴書の書式がどうなっていたのかは、俺にはわからない。しかし、普通に考えれば、健康状態のところには良好と記載するはずで、今、俺に言ったことが事実だとすると、矢島さんの行為は、所謂、経歴詐称とも取れる」
驚いて高橋さんを見た拍子に、目尻から涙がシーツに流れ落ちていった。
やはり、高橋さんから見れば、あるまじき行為。故に、私の取った行動は、会社から見ても言語道断なのだろう。高橋さんの言葉は、冷静に考えると当然の応え。私は何を期待して……。
「どういう経緯があって、何故、そういう行動に至ったのか俺にはわからないが、理由はどうあれ、会社に提出する書類に作為があったと取られても仕方ないだろう。会社の就業規則の中に、懲戒解雇事由という規定がある。この規定に抵触することを理由に解雇できる場合もある」
解雇……。その言葉が、胸に突き刺さった。
「しかし、会社は矢島さんを直ぐに解雇出来るわけではない。裁判になった場合を想定した時、裁判所も採用の決定の判断に重大な影響を及ぼす経歴、この場合の経歴とは、学歴・職歴・犯罪歴を指すのだが、その経歴について虚偽の申請をしたことは、懲戒解雇の自由になりうると謳いつつ、それが採否の判断決定に重大な影響を及ぼすかどうかについては、事前に発覚していれば、雇用しなかっただろうと考えられる場合であり、それと同時に客観的に見て、そのように認めるのが相当かどうかによって決められるものという判断がみなされる。
何かに掴まりたくて、ギュッと掛けてあった毛布を上から両手で掴んだ。
「……」
黙ったまま、私の瞳を捉えた高橋さんの瞳には、私が映っている。
「私、会社に入る時に、持病があることを隠して入社しました」
「……」
今、自分が発した言葉がリバウンドして来るのを、唇を噛みしめながら耐えていた。後悔してはいけない。何時かは、言わなければいけなかったのだから。けれど、高橋さんは先ほどから何も言ってくれない。呆れて言葉も出ないのかな。そう思うと、居たたまれない気持ちでいっぱいになってしまった。
「今まで黙っていて、申し訳ありませんでした」
それだけ言うのが精一杯で、後は何も言えぬまま高橋さんから目を逸らし、天井を見つめていた。
「矢島さんが、会社に提出した履歴書の書式がどうなっていたのかは、俺にはわからない。しかし、普通に考えれば、健康状態のところには良好と記載するはずで、今、俺に言ったことが事実だとすると、矢島さんの行為は、所謂、経歴詐称とも取れる」
驚いて高橋さんを見た拍子に、目尻から涙がシーツに流れ落ちていった。
やはり、高橋さんから見れば、あるまじき行為。故に、私の取った行動は、会社から見ても言語道断なのだろう。高橋さんの言葉は、冷静に考えると当然の応え。私は何を期待して……。
「どういう経緯があって、何故、そういう行動に至ったのか俺にはわからないが、理由はどうあれ、会社に提出する書類に作為があったと取られても仕方ないだろう。会社の就業規則の中に、懲戒解雇事由という規定がある。この規定に抵触することを理由に解雇できる場合もある」
解雇……。その言葉が、胸に突き刺さった。
「しかし、会社は矢島さんを直ぐに解雇出来るわけではない。裁判になった場合を想定した時、裁判所も採用の決定の判断に重大な影響を及ぼす経歴、この場合の経歴とは、学歴・職歴・犯罪歴を指すのだが、その経歴について虚偽の申請をしたことは、懲戒解雇の自由になりうると謳いつつ、それが採否の判断決定に重大な影響を及ぼすかどうかについては、事前に発覚していれば、雇用しなかっただろうと考えられる場合であり、それと同時に客観的に見て、そのように認めるのが相当かどうかによって決められるものという判断がみなされる。