新そよ風に乗って 〜時の扉〜
矢島さんの入社が、我が社にとって具体的に業務上の支障が生じていないのであれば、経歴詐称のみを理由に懲戒解雇をすることはないだろう」
これが、社会というものなのだと実感した。その全ては、法や秩序のもとになりたっている。独りよがりの自分の甘さ。人への甘え。内定を貰えたあの頃、こんなことになるとは夢にも思わなかった。それどころか、そんな重大なことだということすら理解も出来ず、事を簡単に解釈して軽率な行動を取ってしまった。悔やんだところで、何も始まらないのだけれど。
「と、いうのが会社の見解だろうな。ただし、これはあくまで矢島さんが、持病を隠して入社したことのみに対してだ」
私が、持病を隠して入社したことのみって、他にもまだ何かあるの?
「あの……。それは、どういう意味でしょうか?」
すると、高橋さんがほんの僅かだが、口元を緩ませたように見えた。
「ここからは、あくまで俺の個人的見解だが……」
高橋さんは、そう前置きすると、椅子から少し前に身を乗り出し、私の寝ているベッドに両肘を付いた。
「今から言うことに、他意はない。事実、現実を述べるだけだから、決して自分に置き換えて考えるな。いいか?」
「はい……」
言われている意味がまるでわからなかったが、返事をせざるを得ない。そんな状況だった。
「世の中の決まり事の中に、時に建前上とも取られがちな面もあるが、法というものは弱者を守るべきためのものとして制定されている。その法というものは、多面に渡って施行されているわけだが、その一つに障害者雇用促進法というものがある」
障害者雇用促進法?
「雇用する側、雇用される側、共に条件等、いろいろなケースがあるので詳細を話しているときりがないが、ざっくり言えば、その根本にあるのは、何らかの身体に障害を持っている人に対し、企業はそのことを理由に雇用を拒否することは出来ない」
高橋さん?
「つまり、矢島さんに持病があるからといって、会社はそれを理由に採用拒否や解雇は出来ないということだ」
「高橋さん」
これが、社会というものなのだと実感した。その全ては、法や秩序のもとになりたっている。独りよがりの自分の甘さ。人への甘え。内定を貰えたあの頃、こんなことになるとは夢にも思わなかった。それどころか、そんな重大なことだということすら理解も出来ず、事を簡単に解釈して軽率な行動を取ってしまった。悔やんだところで、何も始まらないのだけれど。
「と、いうのが会社の見解だろうな。ただし、これはあくまで矢島さんが、持病を隠して入社したことのみに対してだ」
私が、持病を隠して入社したことのみって、他にもまだ何かあるの?
「あの……。それは、どういう意味でしょうか?」
すると、高橋さんがほんの僅かだが、口元を緩ませたように見えた。
「ここからは、あくまで俺の個人的見解だが……」
高橋さんは、そう前置きすると、椅子から少し前に身を乗り出し、私の寝ているベッドに両肘を付いた。
「今から言うことに、他意はない。事実、現実を述べるだけだから、決して自分に置き換えて考えるな。いいか?」
「はい……」
言われている意味がまるでわからなかったが、返事をせざるを得ない。そんな状況だった。
「世の中の決まり事の中に、時に建前上とも取られがちな面もあるが、法というものは弱者を守るべきためのものとして制定されている。その法というものは、多面に渡って施行されているわけだが、その一つに障害者雇用促進法というものがある」
障害者雇用促進法?
「雇用する側、雇用される側、共に条件等、いろいろなケースがあるので詳細を話しているときりがないが、ざっくり言えば、その根本にあるのは、何らかの身体に障害を持っている人に対し、企業はそのことを理由に雇用を拒否することは出来ない」
高橋さん?
「つまり、矢島さんに持病があるからといって、会社はそれを理由に採用拒否や解雇は出来ないということだ」
「高橋さん」