新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「お局……いや、黒沢さんに何か言われたの?」
心配そうな表情で私の様子を窺う中原さんを見て、改めて自分の不甲斐なさを痛感してしまう。同じように、他の新入社員もそうなのだろうか? 周りのことに気を配れるほど、余裕などまだない。
「いいえ、何も……」
「それなら良かった」
周りから見たら、きっと頼りない新入社員に映っているんだろうな。
「これ、3部ずつコピーしてきてくれるか」
「はい」
言われたことを正確にやり遂げる。今の自分に出来る、精一杯の行動。仕事って何なんだろう。職務って……。
「矢島さん。机の上拭いたら、ゴミ捨て行ってきてね。それと、机の上は綺麗に拭いてよ」
「は、はい」
朝からやることが沢山あって、自分の机の上の整理も出来ない。明日から、もっと早く来ないといけないな。
「そんな悠長に拭いてたら、朝礼までに間に合わないわよ」
「す、すみません」
「貸して」
横から細くて長い指先を伸ばして私から雑巾を奪ったのは、折原さんだった。
「綺麗に拭いて欲しければ、気が済むまで自分で拭けばいいのよ。ついでにこの雑巾で顔も拭いてやろうかしら」
「お、折原さん」
すぐ後は黒沢さんの席なのに、それをわかっていて敢えて聞こえるように言う折原さんとは、いったいどんな心臓の持ち主なのだろう。
「折原さん。何か言ったかしら?」
「言いましたよ。自分の机も自分で拭けないような先輩にはなりたくないってね」
「……」
無言で立ち上がった黒沢さんに対峙する折原さんの口元からは笑みがこぼれ、黒沢さんをわざと怒らせているのか、嘲笑しているのか、どちらにも取れて見える。
「絶対数の少ない新人に、事務所内の全ての机を拭かせ、ゴミ捨てまでやらせるのは時間的に早出でもしない限り無理です。しかし、その賃金は就業規定にないですから出ませんよね。黒沢さんがポケットマネーでお支払い下さって、どうしても自分の机ないし、事務所の掃除を完璧にして欲しいと願うのでしたら別ですけれど」
心配そうな表情で私の様子を窺う中原さんを見て、改めて自分の不甲斐なさを痛感してしまう。同じように、他の新入社員もそうなのだろうか? 周りのことに気を配れるほど、余裕などまだない。
「いいえ、何も……」
「それなら良かった」
周りから見たら、きっと頼りない新入社員に映っているんだろうな。
「これ、3部ずつコピーしてきてくれるか」
「はい」
言われたことを正確にやり遂げる。今の自分に出来る、精一杯の行動。仕事って何なんだろう。職務って……。
「矢島さん。机の上拭いたら、ゴミ捨て行ってきてね。それと、机の上は綺麗に拭いてよ」
「は、はい」
朝からやることが沢山あって、自分の机の上の整理も出来ない。明日から、もっと早く来ないといけないな。
「そんな悠長に拭いてたら、朝礼までに間に合わないわよ」
「す、すみません」
「貸して」
横から細くて長い指先を伸ばして私から雑巾を奪ったのは、折原さんだった。
「綺麗に拭いて欲しければ、気が済むまで自分で拭けばいいのよ。ついでにこの雑巾で顔も拭いてやろうかしら」
「お、折原さん」
すぐ後は黒沢さんの席なのに、それをわかっていて敢えて聞こえるように言う折原さんとは、いったいどんな心臓の持ち主なのだろう。
「折原さん。何か言ったかしら?」
「言いましたよ。自分の机も自分で拭けないような先輩にはなりたくないってね」
「……」
無言で立ち上がった黒沢さんに対峙する折原さんの口元からは笑みがこぼれ、黒沢さんをわざと怒らせているのか、嘲笑しているのか、どちらにも取れて見える。
「絶対数の少ない新人に、事務所内の全ての机を拭かせ、ゴミ捨てまでやらせるのは時間的に早出でもしない限り無理です。しかし、その賃金は就業規定にないですから出ませんよね。黒沢さんがポケットマネーでお支払い下さって、どうしても自分の机ないし、事務所の掃除を完璧にして欲しいと願うのでしたら別ですけれど」