新そよ風に乗って 〜時の扉〜
折原さんが、駐車場で言っていた言葉を思い出した。
『あいつは、入社した当初から、会社再建のために経費削減に尽力を注いでいるのだけれど……。削ってはいけないもの、削らなければならないもの、削るべきものの区別が出来る男なのよ。高橋はね……』
『今日、これから私達が行ってやろうとしていることは、高橋が削ってはいけないものだと言って、苦しい会社の台所事情は百も承知の上で、社長に直談判して守り抜いた予算枠なの。高橋が何故、そこまでして? と思うかもしれないけれど、だからこそ、矢島さんも今日は、いろいろなことを感じて、学んで、明日に繋げてね』
折原さんに言われた時は、何のことだかわからなかったが、このことだったんだ。削ってはいけないもの。社長に直談判して守り抜いた予算枠。自己浄化活動。いろいろなことを感じて、学んで……。
高橋さん。
胸がいっぱいになって、運転席の高橋さんを見た。すると、私の視線を感じたのか、それとも車内の空気の流れが動いたからか、ちょうど赤で車は停まっていたので、高橋さんもこちらを見たため視線が合った。
「何だ?」
「高橋さん。あの……」
頭の中を上手く整理出来ずにいる。でも……。でも今、口に出して言わないと、私は……。前に進めない気がする。気づけたのだから、気づいたのだから。
「私は、ちっぽけな人間かもしれません。会社のためになるようなことは、何も思いつかないかもしれません。今はまだ何も出来ませんが、少しでも、僅かなことでも会社のためになることをしたいと思います。そう有りたいと思います。翼君のためにも」
「あの子のため?」
それまで黙って聞いていた高橋さんが、聞き返した。
「はい。今日のようなイベントを、この先もずっと出来るように、なくさないようにしたいんです」
単純だと言われるかもしれない。上辺だけ見て、軽く考えるんじゃないとも。それでも私は……。
「よく言えたな。偉いぞ」
えっ? あっ……。
高橋さんがいつの間にか、私のマンションの前の路肩に車を停め、サイドブレーキを踏むと、私の髪の毛をクシャッとしながら頭を撫でた。
「でも、泣くことはないだろう?」
「えっ?」
高橋さんに言われて、慌てて右手の指先で右頬をなぞってみると指先が濡れていた。知らぬ間に泣いていた?
「毛嵐を見たことあるか?」
突然、高橋さんがそんなことを言い出した。
「毛嵐……ですか? 見たことないです」
毛嵐という言葉自体、初めて聞いた。
『あいつは、入社した当初から、会社再建のために経費削減に尽力を注いでいるのだけれど……。削ってはいけないもの、削らなければならないもの、削るべきものの区別が出来る男なのよ。高橋はね……』
『今日、これから私達が行ってやろうとしていることは、高橋が削ってはいけないものだと言って、苦しい会社の台所事情は百も承知の上で、社長に直談判して守り抜いた予算枠なの。高橋が何故、そこまでして? と思うかもしれないけれど、だからこそ、矢島さんも今日は、いろいろなことを感じて、学んで、明日に繋げてね』
折原さんに言われた時は、何のことだかわからなかったが、このことだったんだ。削ってはいけないもの。社長に直談判して守り抜いた予算枠。自己浄化活動。いろいろなことを感じて、学んで……。
高橋さん。
胸がいっぱいになって、運転席の高橋さんを見た。すると、私の視線を感じたのか、それとも車内の空気の流れが動いたからか、ちょうど赤で車は停まっていたので、高橋さんもこちらを見たため視線が合った。
「何だ?」
「高橋さん。あの……」
頭の中を上手く整理出来ずにいる。でも……。でも今、口に出して言わないと、私は……。前に進めない気がする。気づけたのだから、気づいたのだから。
「私は、ちっぽけな人間かもしれません。会社のためになるようなことは、何も思いつかないかもしれません。今はまだ何も出来ませんが、少しでも、僅かなことでも会社のためになることをしたいと思います。そう有りたいと思います。翼君のためにも」
「あの子のため?」
それまで黙って聞いていた高橋さんが、聞き返した。
「はい。今日のようなイベントを、この先もずっと出来るように、なくさないようにしたいんです」
単純だと言われるかもしれない。上辺だけ見て、軽く考えるんじゃないとも。それでも私は……。
「よく言えたな。偉いぞ」
えっ? あっ……。
高橋さんがいつの間にか、私のマンションの前の路肩に車を停め、サイドブレーキを踏むと、私の髪の毛をクシャッとしながら頭を撫でた。
「でも、泣くことはないだろう?」
「えっ?」
高橋さんに言われて、慌てて右手の指先で右頬をなぞってみると指先が濡れていた。知らぬ間に泣いていた?
「毛嵐を見たことあるか?」
突然、高橋さんがそんなことを言い出した。
「毛嵐……ですか? 見たことないです」
毛嵐という言葉自体、初めて聞いた。