新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「一万から五十万まで……あります」
何だか、恥ずかしくなってきてしまった。計算間違いで一万から五十万までの誤差があるなんて、普通考えられないこと。
「五十万?」
中原さんが、その五十万の数字に目を丸くしてしまった。無理もない。絶対、そんな数字の間違いは、桁の入れ間違いか何かだから。
「中原。順番狂ってもいいか?」
「はい。大丈夫です」
「矢島さん。それじゃ、その書類を十枚ずつに分けて」
「は、はい」
高橋さんに言われたとおり、百枚以上ある書類を十枚ずつに分けて、クリップで留めていく。そして分け終わって纏めていると、高橋さんが椅子持ってきて私の隣に背もたれを前にして椅子を並べると跨いでそこに座った。
「それじゃ、矢島さん。始めようか」
「はい……」
「こういう膨大な数の書類の時は、誰だって間違えることの方が多い。だからこうして、小分けにしてそれぞれの小計を出していって後で足す。もし誤差が生じた場合は、それぞれの小計をもう一度、出し直してみる。そうすることによって誤差が解消出来る。誤差が出てしまったからといって、また縦計を入れ直すと、今度は誤差が誤差を生むような形になってしまい、どれが近似値なのかすら、わからなくなってしまう。パソコンの計算式に入れられればいいのだが、全ての要求を満たせる計算式がコンピューターには備わってない場合もある。そうした場合、こうした方法を覚えておくといい」
「はい。ありがとうございます」
「あと、書いてある数字が不鮮明だったりした場合は、先方に問い合わせた方がいい。1だか7だか分からない場合、その取り方によっても数字が狂ってくる場合もある。これなんかそうだろう? 1にも7にも見える」
高橋さんが指さした書類を見ると、確かに1にも7にも見える。
「こういう書き方をされると困るよな」
そう言って、高橋さんは書類を人差し指の指先で弾いた。
「それじゃ、また出来たら呼んで」
< 67 / 210 >

この作品をシェア

pagetop