新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「折原さん。貴女、何様?何年目だと思ってるの? たかだか、まだ……」
「4年目ですよ。それがどうかしましたか? 社会人の先輩として、手本となる行動を心掛けてこそ、良き先輩と尊敬され、見習われるのです。常識、節度、公平さ、それを持ち合わせていなければ、たとえ勤続年数が長いとはいえ、負の部分は見習えません。確かに黒沢さんは私より2年先輩かもしれませんが、年齢は一緒です。2年も長く会社にいらっしゃるのでしたら、その長さを生かした明敏な頭脳を見せて下さい」
「……」
「さて……。私はゴミ捨て行ってくるから、矢島さん。本来の自分の担当、会計のみんなの机だけ拭いて終わりにしていいわよ。机の上に積もった埃で死んだとか、聞いた事ないし、汚くて耐えられなければ自分で拭くだろうから、あとの担当のところは放っておいていいから」
「は、はい。あの……ゴミ捨て、私が行ってきます」
「いいから、貴女は雑巾洗って干してきて」
「はい。すみません」
折原さんに言われたとおり、雑巾を洗って干してから事務所に戻って席に着くと、ゴミ捨てから帰って来た折原さんが、会計の横を通って行くのが見えた。
「折原さん。ありがとうございました」
私の声に振り向いた折原さんに、すかさず立ち上がってお礼を言った。
「お礼なんて、そんなたいそうな事はしてないわよ」
その時、朝礼の開始を知らせるチャイムが鳴り、一斉に席から立ち上がった社員が、所定の位置に向かって歩き出していた。それに従って中原さんの後に私も続いたが、自分の机の横を通りながら手帖を手に取った前を歩く折原さんが、高橋さんに話し掛けていた。
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