新そよ風に乗って 〜時の扉〜
あっ……。
「だ、だから、まだあまり話したこともないし、上司としてしか見てなかったそんな風に思ったこともないですから。本当にもう、からかわないで下さい」
「陽子。声が大きいよ」
「ご、ごめんなさい」
つい、興奮してしまった。高橋さんのことになると、どうもムキになってしまう。
「ふーん……。そうなんだ。でもさあ……」
でもさあって、まだ何かあるの?
「本配属先が、会計じゃなかったら哀しいでしょう?」
本配属先? 会計じゃなかったらって……。
「それ、どういう意味ですか? 本配属先って、だって入社式で辞令を貰ったじゃないですか?」
「何? 陽子知らないの? ゴールデンウィーク明けの頃に、もう一度見直しが掛かって、それで本配属先が決まるのよ。その辞令は、5月15日付けで渡されるから。要するに、人間、得手不得手があるから、必ずしもその職場が合ってるとは限らないでしょ? そういうことも踏まえて仮配属中なのよ、私達は今」
そんな……。
思わず、高橋さんの顔や中原さんの顔、折原さんの顔が浮かんだ。やっと少しだけでも慣れてきた経理の雰囲気と会計の仕事。何より、高橋さんという上司に巡り会えた。それなのに、もしかしたら配属先が5月15日から変わってしまうかもしれないなんて。そんなのって……。
「それは、誰が決めるの?」
「誰がって……。所属長と直属の上司とか、そこら辺の話し合いじゃない?」
そうなんだ。高橋さんと経理部長との話し合いで決まってしまう。
「私の本配属先は、どこなんだろう?」
ソーサーの上にのっているスプーンに、天井の白熱灯が鈍く反射して、ステンレスのスプーンが一点だけ黄金色に見えるのをぼんやり見ていた。
「絶対、変わるというわけじゃないわよ。変わらないで、そのまま本配属になるっていう人が殆どなんだから」
高橋さんが、上司でなくなるかもしれないなんて。
「陽子? だ、大丈夫?」
「えっ? あっ……。ごめんなさい。ボーッとしちゃって」
「陽子は、やっぱりハイブリッジに打ち抜かれたんだな」
「う、打ち抜かれたなんて、そんな高橋さんに……」
「シッ!」
神田さんが、口の前に人差し指を立てて言葉を遮った。
「噂をすれば、お出ましになったわよ」
エッ……。
「だ、だから、まだあまり話したこともないし、上司としてしか見てなかったそんな風に思ったこともないですから。本当にもう、からかわないで下さい」
「陽子。声が大きいよ」
「ご、ごめんなさい」
つい、興奮してしまった。高橋さんのことになると、どうもムキになってしまう。
「ふーん……。そうなんだ。でもさあ……」
でもさあって、まだ何かあるの?
「本配属先が、会計じゃなかったら哀しいでしょう?」
本配属先? 会計じゃなかったらって……。
「それ、どういう意味ですか? 本配属先って、だって入社式で辞令を貰ったじゃないですか?」
「何? 陽子知らないの? ゴールデンウィーク明けの頃に、もう一度見直しが掛かって、それで本配属先が決まるのよ。その辞令は、5月15日付けで渡されるから。要するに、人間、得手不得手があるから、必ずしもその職場が合ってるとは限らないでしょ? そういうことも踏まえて仮配属中なのよ、私達は今」
そんな……。
思わず、高橋さんの顔や中原さんの顔、折原さんの顔が浮かんだ。やっと少しだけでも慣れてきた経理の雰囲気と会計の仕事。何より、高橋さんという上司に巡り会えた。それなのに、もしかしたら配属先が5月15日から変わってしまうかもしれないなんて。そんなのって……。
「それは、誰が決めるの?」
「誰がって……。所属長と直属の上司とか、そこら辺の話し合いじゃない?」
そうなんだ。高橋さんと経理部長との話し合いで決まってしまう。
「私の本配属先は、どこなんだろう?」
ソーサーの上にのっているスプーンに、天井の白熱灯が鈍く反射して、ステンレスのスプーンが一点だけ黄金色に見えるのをぼんやり見ていた。
「絶対、変わるというわけじゃないわよ。変わらないで、そのまま本配属になるっていう人が殆どなんだから」
高橋さんが、上司でなくなるかもしれないなんて。
「陽子? だ、大丈夫?」
「えっ? あっ……。ごめんなさい。ボーッとしちゃって」
「陽子は、やっぱりハイブリッジに打ち抜かれたんだな」
「う、打ち抜かれたなんて、そんな高橋さんに……」
「シッ!」
神田さんが、口の前に人差し指を立てて言葉を遮った。
「噂をすれば、お出ましになったわよ」
エッ……。