新そよ風に乗って 〜時の扉〜
そう言って、店員さんは食べ終わったお皿を片付けてくれながら出て行った。
コラーゲン玉?
「これが、コラーゲン玉だ」
「えっ? これがコラーゲン玉なんですか? 初めて見ました」
ゼラチンや寒天のような、ゼリー状のプルプルとした感じの固まりがお皿の上にのっている。
「これはこっちの鍋に入れて、具と一緒にスープも飲むと出汁もきいてて美味い。あと香菜は、このまま飲んでもさっぱりしてて美味いぞ」
「そうなんですか。あっ、私がやります」
香菜のスープを取り分けてくれようとした高橋さんだったが、これぐあいは私でも出来るので、大きめのレンゲで小皿に香菜のスープを入れて高橋さんに渡した。
「ありがとう」
「いい香りがしますね」
「だろう? 身体が温まって、美容にもいいらしいぞ」
「そうなんですか。沢山飲まなきゃ」
「フッ……。単純だな」
「はい。単純なんです、私」
「ハハハッ……。それならいっぱい食べて、栄養付けろ」
「はい」
その後、大山軍鶏のココロや地鶏のもものタタキ等、初めて食べるものが殆どだったが、本当にみんな美味しくて食べ過ぎてしまった。
「お腹いっぱいです。食べ過ぎました」
「鶏肉は胃にもたれないから、少しぐらい食べ過ぎても大丈夫だ。それに明日は休みだからゆっくり出来るだろう?」
そうだ、忘れてた。今日は金曜日だったんだ。
店員さんが運んできてくれたお茶を飲みながら、何が一番美味しかったか等、高橋さんと鶏料理について話をしていると、高橋さんがジッと私を見つめた。
な、何?
「もし、仮に本配属先が仮配属先と違ったとしても、それでも前にお前に言った言葉に嘘はない」
高橋さん?
「あの……。それは、どういう意味ですか? 私は本配属で、会計じゃなくなるんですか?」
「……」
「教えて下さい。そうなんですか?」
「人事的なことは、立場上言えない」
鋭く私の瞳を捉えた、その漆黒の瞳の奥に隠された私の未来。大袈裟なようだけれど、今の私にとって本配属先は、喉から手が出るほど知りたいこと。それを思わせぶりな言葉だけでお預けを食らったみたいで、何だか消化不良を起こしそうだ。
「ただ言えることは、人はどんな環境にあろうとも、自身の強い意志があれば、たとえ地を這いつくばってでも立ち上がれる。それには、己の厄介なプライドは捨てろということだ」
己の厄介なプライド……。
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