新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「原点は、皆同じ。この世に生を受け、学習して社会に出る。その過程はそれぞれ違うだろうが、人生の最初の通過点が社会に出るということ。あくまで社会に出るということは、一つの通過点であって到達点じゃない。あながち、学ぶことを終えた人は社会に出て、そこが到達点だと潜在的に思ってしまうが、それでは前には進めない。社会に出てから人として形成されていくのは、まだこれからなんだ。よく社会に揉まれた方がいいと言うだろう?」
「はい」
「それは、いい意味にも悪い意味にもとれるが、人は打たれてこそ這い上がれる。打たれ強くなるんじゃない。打たれても、それに持ちこたえられる度量と技量を持ち合わせていくんだ」
「度量と技量……ですか?」
私にそんな度量と技量等というものが、果たして備わってくるのだろうか。
「この場合の度量と技量というのは、度量は寛容な心で技量は手腕だ。どちらも、スキルアップしてこそ得られる。簡単にスキルアップするとか、スキルアップしろとか耳にするが、実際そんな生易しいものじゃない。そのベースになる経験と実績が伴っていなければ、今日、明日に身につくものではないだろう?」
まだ会社に入って1ヶ月にも満たない私にとって、経験と実績等、ないに等しい。けれど高橋さんは、そんな私にも丁寧に説明してくれている。でも今の私は、目先のもっと次元の低いことが気になっていて……。本配属先が何処になるのか、気になって仕方がない。
「さっき、多かれ少なかれ誰だって波があって、それを上手くコントロール出来るのがベストだとわかっていても、なかなか出来ないのが人間で、でもそれがまた人間の面白いだと言っただろう?」
「はい」
「それは、そういうことなんだ。勿論、自分の感情を美味くコントロール出来ることが一番いいに決まっている。だが、同じことを相手から言われても、人それぞれ捉え方も感じ方も違うのと一緒で、相手が言わんとしていることがわかっていても、常に否定的にとる人もいれば、たとえ言われた内容が自分にとって痛いところを突かれたとしても、それはアドバイスだと有り難いととる人。捉え方や感じ方は人それぞれだ。どう捉えるのも自由だが、せっかく縁あって、同じ会社の同じ担当になった矢島さんには、常に向上心を持っていて欲しい」
高橋さん……。
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