新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「そうだ。表彰状と感謝状の違いは、表彰状の文面は普通、君は……から始まって、ここに表彰する、で終わる。感謝状の場合は、あなたは……から始まり、ここに感謝状を贈ります、で終わる」
そうなんだ。知らなかった。
「表彰状は、社内や部内、所謂職務に対してのもので、感謝状は、民間人や部外者に対して贈られるものなんだが、個人的に俺が思っている事があって、感状という言葉にはまた別に古代の慣わしの意味があるのだが、その間に謝を入れて感謝状としているのは、本来、自分たちがしなければいけないことに、代わって部外者が行ってくれたことに対する謝意、つまり自分の過ちを詫びる意味も込められているからなんじゃないかと思っている。だから感謝状なんじゃないかと。だが、その根底にあるのは、万人に対して、年齢に関係なく頭を下げられる事。素直に謝れることは、本当に大事なことだ」
「高橋さん……」 
瞬きをしながら長く目を閉じると、涙が頬を伝っていった。
「もう、泣くな」
嘘……。
そう言って、高橋さんが左手の親指で頬を伝う涙を拭ってくれた。
綺麗な長い指。その印象が強い、高橋さんの指が私の頬に触れている。恥ずかしさと驚きで、その感触を目を瞑ったまま捉えていた。
「昨日、ダンケに居た女性は、学生時代の知り合いだ」
「えっ?」
うわっ。
その言葉に目を開けると、目の前に高橋さんの顔が迫っていた。
ち、近過ぎですって、高橋さん。
「し、知り合いって……」
「知り合いは、知り合いだ。他に例えようがない」
「そ、そうですけど……」
「何か、不満か? せっかく人が泣き賃で教えてやったのに」
「な、泣き賃?」
「泣いたお駄賃?」
ハッ?
泣いたお駄賃? って、小首を傾げて問い掛けられても……。
「それにしても、いつ見てもオマケみたいな鼻だな」
「ウグッ」
いきなり高橋さんが、私の鼻をつまんだ。
「オマケじゃありません。ちゃんと……」
「ちゃんと、何だ?」
何だか自分で言っていて、こんな事にムキになってしまい、恥ずかしくなって言葉が続かなかった。
「すみません……何でも……ありません」
「フッ……。さて、明良が待ってるから帰るか。お前も来るか?」
「えっ? あの……」
「無理にとは言わないが」
近くにあった高橋さんの身体が離れ、ハンドルを両手で抱え込むようにしながら横顔をこちらに向けた高橋さんが、優しく微笑みながら私の顔を覗き込んでいる。
高橋さん。
どうしよう……。
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