新そよ風に乗って 〜時の扉〜
確かに、朝食食べないで待っててくれと言われたが、だけど……。
「乗って」
エッ……。
「いいから、早く」
「えっ? あ、あの……」
またしても、押し切られるようにして高橋さんの助手席に座らされてしまった。
そして、高橋さんが車のエンジンを掛けると、そのまま大通りへと車を発進させた。
何処に行くのだろう?
高橋さんと二人で、土曜日に会ってるなんて……。この前の病院訪問以来だ。だけど、本当に何処に行くのだろう。何も言ってくれない高橋さんに業を煮やして、勇気を出して聞いてみた。
「あの、高橋さん」
「ん?」
すると、ちょうど信号待ちだったので、高橋さんが助手席の私を見た。
「これから、その……何処に行くんですか?」
「秘密。着いてのお楽しみ」
ハッ?
秘密? 着いてのお楽しみ? 私……からかわれてる?
「そんな……。秘密って、高橋さん」
「フッ……。行けばわかるさ」
高橋さんは微笑みながらそう言うと、信号が青に変わり、また前を向いて運転し始めた。
いったい、何処に向かっているのだろう。
私のマンションから車で三十分位走ったところで、高橋さんが左にウィンカーを出し、割と大きめ門構えの入り口をくぐり抜け、車路を走っていくと一つの大きな建物が前方に見えてきた。
「着いた」
ロータリーに車を停めると、高橋さんが運転席から降りて助手席のドアを開けてくれたので、何もわかっていなかったが車から降りた。
「此処で待っててくれ。車置いてくる」
車置いてくるって……。いったい、此処は。
「あの、高橋さん」
運転席に乗ろうとしていた高橋さんを呼び止めた。
「此処って……」
「俺のマンション」
「ええっ?」
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