チョコレートを一緒に 〜それぞれのバレンタイン〜


 夕飯の後。
「太一君のケーキ食べよう」
 千波さんが切り分けて持ってきた。
「わーいケーキ!」
「おっおー!」
 はしゃぐ子どもたちとケーキを食べる。
 太一君のケーキはおいしい。甘過ぎず、子どもにも優しい味だ。
「あっ」
 途中、何かを思い出したらしい隆芳が、食器棚から皿を持ってきた。
「これ、おとうさんのぶん」
 チョコクッキーが2枚。
「え、隆芳がもらったんでしょ?隆芳が食べた方がいいんじゃない?せっかくさーちゃんが作ってくれたんだし」
「でも、おかあさんもたかひさもたべたよ。おとうさんもたべてよ」
「あっじゃあ1枚ずつにしたら?2人で食べなよ」
 ね、と千波さんが言う。
 隆芳もそれで良さそうだ。
「じゃあ1枚もらうよ。ありがとう」
「うん!」
 満足そうに笑うので、俺も嬉しい。
「おっおっ」
「隆久は、お母さんとケーキだよーはい」
 千波さんが、隆久に小さく切ったパウンドケーキを渡す。
 隆久は遊びもせずに、ケーキを口に入れた。ぱんぱんのほっぺたは、さわりたくなる。
 隆芳は、俺がクッキーを食べるのを待っているようだ。律儀なやつだ。
「よし、食べよう」
 2人同時に、クッキーをかじる。
 千波さんは、ケーキをほおばりながら、隆久に麦茶入りのストローマグを渡している。

 家族4人の食卓。

 幸せだ、俺。

「はるちゃんがくれたチョコ、後で一緒に食べようね」
 千波さんがささやく。
 後で、とは、子どもたちが寝た後で、ってことだ。
 俺が笑顔で頷くと、千波さんも笑顔を返してくれた。

 本当に、幸せだ、俺。

 世界に向かって叫びたいくらいだ。
 しないけど。俺が知っていればいい。

 その日、千波さんと一緒に食べたチョコは、今までで1番おいしいチョコだった。




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