たとえそれが、どんな結末だったとしても

第一章

「次のテストであんな点数取ったら許さないからね」

そんな母親の声を背に、逃げるように家を飛び出した。泣き出したいのを堪えながら、早足で駅に向かう。

高校に入って最初の定期テスト。私は今まで取ったこともないような点数を取ってしまい、予想通り母に酷く怒られた。

今まではそんな母親と私の間を姉の美佳莉が仲裁してくれていたけれど。

3月____私の高校受験の直後、姉は交通事故で亡くなった。


成績に固執する母と、家族に無関心な父。そんな家族に囲まれた私の味方は二つ年の離れた姉しかいなかった。


「大丈夫、お姉ちゃんが大学生になったら二人でこの家を出よう」


県でトップの高校に首席で進学し、人当たりのいい性格の姉は母からも気に入られていたのに。それなのに、家を出ようと言ってくれた姉にどれだけ救われたことか。

私が受験した高校は姉の学校よりワンランク下の偏差値で、「美佳莉はトップ校なのに…」と何度言われたかはわからない。

それでも良かった。この三年間を耐えれば、二人でこの家を出ていけるから。

そうしたら、二人で色んなところに旅行しよって。
好きな服を買って、お洒落して、美味しいものを食べようって、そう約束した。

でも、彼女はもういない。

今まで私の思い出を彩ってくれたのは、私が心から好きだと思えたのは、お姉ちゃんだけだったのに。


最寄り駅に着き、定期をかざして改札を通る。

顔色を無くしたサラリーマンの波に揉まれ電車に流れ込むと、偶然近くに空いている席があって無理矢理身を滑り込ませた。

駅に着く頃には母親の声はもう記憶の中から薄れていて、今度はまた別の憂鬱が心の中をいっぱいにする。

学校に、行きたくない。

着ている制服が視界に入るのが嫌で、ぎゅっと目を瞑った。


入学早々、私は学校の授業についていけなくなった。

トップではないとはいえ、私の学校も県内でも有数の進学校として有名で。当たり前にそこに通う生徒の学力もレベルが高かった。

何とか作った友人も私とは元が違う。理解力には差があること、結局は努力で埋められない壁があることをすぐに学んだ。

中学の頃は人に教える側だった私は、今度は必死に教わる側になった。

それに加え、勉強で余裕のない私と正反対にみんな部活も遊びも充実させている。

私には何も無くなってしまった。

お姉ちゃんも、勉強も。
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