たとえそれが、どんな結末だったとしても
毎日劣等感を抱えて、大切な人がいなくなった悲しみを抱えて。

私の心はとっくに壊れかかっていた。

それに見て見ぬふりをして、耐えるように日々を過ごしていく。


校門に着くと、見慣れた後ろ姿が視界に入った。

サラサラな、決して染めた訳ではなさそうな自然な茶髪。校則ギリギリの短めのスカートからは細い脚が伸びている。

高校に入って最初にできた友達の紗奈だ。

明るくて話しやすい、所謂「コミュ力が高い」と言われている紗奈は早くもクラスの人気者だった。

出席番号が偶然隣同士で、向こうから話しかけてもらえなかったらずっと関わることは無かっただろう。

あの子は、学校が好きなんだろうな。

話しかけるのも億劫で、彼女の背中をぼんやりと眺めながら、心の中でそう呟く。

いつからか自分と他人とを比べるようになった。

あの子は私よりも幸せなんだろうな。
あの子は私よりも家族に愛されているんだろうな。

そんな風に認識する度、辛くなるだけなのに。


「あ、莉夏!おはよー」


下駄箱で、私と会った途端に顔をぱっと明るくさせる紗奈。おはよ、と返して無理矢理笑顔を作った。


「後ろにいたなら追いかけてきてくれてもいいじゃん!」

「ごめんごめん、紗奈の髪綺麗だなーって見惚れてた」

「何それー」


尖らせていた口を緩め楽しそうに笑う紗奈に、複雑な気持ちになる。

こんなに明るい子なのに、どうして私と一緒にいてくれるんだろう。

いいな、朝から楽しそうで。

意気揚々と彼氏との惚気話を始める彼女と並び、相槌を打つ私。周りからは一体どう見えているだろうか。

そんなことを考えていると、ひとしきり話し終えて満足した紗奈が話題を変える。


「ねぇ、うちの学年トップ、陸上部に入ったじゃん。その人県一番の強豪校の推薦蹴ってここ受験したらしいよ」

「県一番の強豪って、あの有名私立校?」

「そうそう、偏差値もすごく高いからみんなびっくりしてる」

なんでもできる人っているんだね、と少しだけ羨ましそうに、でも軽く話す紗奈から視線を逸らした。

ここに入学してから聞くのはそういう話ばかりだった。

あの子は絵が上手い、あの子はボランティアを主催している。みんなそんな話をしていても、劣等感を感じている雰囲気はない。

現に、隣の紗奈はもう次の話題に移っていた。

< 2 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop