麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集
その6
麻衣



亜咲さんと私はロックモータースの3軒先の喫茶店に入り、窓際の席で向かいあった

「さっそく聞かせてもらうわ。何かな、話って…」

私は神妙な顔してたと思う

だが、亜咲さんはニコニコしながらそう切り出してくれたよ

「はい。仕事場にまで押しかけて、申し訳ありません。実は、どうしても直に伺いたいことがありまして…」

「うん。どうぞ…」

「あのう…、私の友達で南玉連合や紅組のこと、詳しい子がいるんですが…。私が亜咲さんに憧れてるっていうの知ってるから、色々と情報を教えてくれるんです…。それで…」

おそらく亜咲さんにはさ、私がこれから何を話すのかはもう察知していたんだろうね

でも、この人の表情は変わらず、とてもおだやかだった

...


「私は亜咲さんが次の総長になるらしいって聞いていて、喜んでいました。でも…、その子の情報だと亜咲さん、次期総長が内定してるにもかかわらず、南玉連合を脱退されるとか…。あのう、ぶしつけですいません。本当にそういう考えなんですか…?」

いきなりだったので、亜咲さんは気分を害するかもしれないとは思ったが、何しろこの時の私は聞かずにはいられない…

まさにその一心だったんだ

...


「…その通りよ。私は南玉を辞めるわ。これはもう決めたことで、組織にも内々でその意向は伝えてる」

亜咲さんが穏やかな顔つきのまま、こうまでストレートに答えくれたことに、私はちょっと驚いた

「そうですか…。まずは、私なんかが唐突にお尋ねしたにもかかわらず、はっきりお答えいただいて、本当にありがとうございます。…それで、どうしても何故かという思いが強くて…。できれば、考え直してもらいたい気持ちはあります」

「…」

「もちろん、それなりの理由もおありでしょうし、散々考えた末の決断なのはわかっています…。でも、私…」

私はやや前のめりで、いつになく歯切れが悪い言い回しになってた

「…理由は一言で済むわ。家庭の事情よ」

「…」

この時、私は絶句状態だった

それは複数の面から…

...


「…私の母、難病で入退院を繰り返しててね。看病の時間と入院費の工面、どっちともきつくなってきてるんだ。…正直、南玉の総長をやっていける状況はでなくなってきてね。それで、仲間には本当に迷惑をかけて心苦しいんだけど…。迷った末にね…」

「そうですか…。そんな大変な事情があったとは存じませんで、無神経な聞き方してしまいました。許してください」

私はぺこんと頭を下げた

それはうな垂れるように…

「ううん、いいの」

亜咲さんはここに至っても、優しい表情のままだったよ

何で…、何でなの…

私は何度も無言でそう問いかけていたよ




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