麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集
ゴールドシートを独占した少女/その4
ケイコ


「はは…、さっそく察したみたいだな、ケイちゃん…」

亜咲さんはこっちに振り返ると、窓枠に両腕のひじ辺りを乗せて私の返事を待ってる

「私が亜咲さんのうしろに、年中乗っけてもらってるからでしょう?友達にもよく、”あの”高原亜咲さんのバイクに乗っかてたよねって声かけられるし…。今じゃあ、南玉連合の伝説の女ライダー高原亜咲の”うしろ”は隣に住んでる横田とかって中学生が独占してるらしいって…。はは…、私はみんなにうらやましがられる存在って面で知れ渡っちゃったようだわ(苦笑)」

「ふふ‥、そういうことだよ。逆に言えば、私の運転するバイクにアンタがあのままんま”搭乗拒否”してりゃあ、今の状況はなかったってことになるだろうし…。仮にそうだったら、紅丸さんのクリア基準は微妙だったかな…」

「亜咲さん…、ひょっとしたら、それ目的で私をバイク乗せるの、あそこまで熱心に勧めたの…?」

私はちょっと皮肉った

亜咲さんはクスッと、ちょっと吹き出してこう切り返してきた

「そう思うかい?」

私はすぐに答えず、亜咲さんをニヤニヤしながらしばらく見ててね…

思いだすよ、あの当時のこと…




「どうだい、ケイちゃん…。そろそろ”うしろ”、乗っかってみないか?」

「…」

亜咲さんがバイクを乗り出してから、私はこれまでもこの言葉を定期的に投げかけられてきた

でも、私はなかなか”うん”とは言えなかったんだ

何しろ幼い頃、亜咲さんのお父さんがバイクで大事故を起こし、血にまみれたヘルメットがこの目に焼き付いてたからね…

あれ以来、私はオートバイが走ってるところを見るのが恐くなって、自転車に慣れるのにも人の何倍も時間を要したよ

”私、バイク、一生ダメだわ。運転もしないし、人の運転でも後ろなんか絶乗らない”

この決心は固かったし、ずっと変わらないと思ってた

亜咲さんはそんな私の決心、百も承知であの言葉を私に投げ続けてくれたんだ…

でも、強くは勧めなかった

私が「無理…」と答えれば「そう…」で終わってたし、いつも…

...


私の気持ちを一番よく知っているはずのこの人がなぜ、そこまでバイクに乗せたがっていたか…

実は私には、初めからわかっていたんだ

無論、亜咲さんはその理由は一切、ただの一度も、そして最後まで口にしなかったけど…

ただ、私の気持ちが”そこ”に至るまで、待ち続けてくれてた





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