垂涎、午睡、うららかに【完】
小町さんが二回目にうちへ来たときに、「なんだか背中がゾクゾクする」と言ったので、実家で母がよく飲んでいたジンジャーミルクティーをつくった。

彼女は桃色の頬をして、おいしい、おいしいと繰り返し言い、その夜は丁寧に『師匠のおかげで元気になりました! またよろしくお願いします』とメッセージまで送ってきた。


彼女の表現はいつだって大袈裟で、腹の底をくすぐられるような感覚を覚える。
だけどそれは、不快ではない。

「京極くんもシナモン好きなの? このまえ出してくれたシナモンのビスケットもおいしかった」

「あれは……」

シナモンが好きだと思ったことは、とくにない。
そもそも甘いものには興味がないから、ビスケットはそのうち湿気てしまうだろう。
それなのに、どうして自分はビスケットなんて買ったのだろう。

考えていると、目の前でなにかがひかった。

「わ、やだ。目にごみでも入ったかな。やだなあ」

大きな瞳から、ぱらぱらと雨粒がこぼれていく。
ちいさな手が懸命に拭えば拭うほど、その勢いは増す。

微かな嗚咽が、彼女の唇から漏れた。
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