垂涎、午睡、うららかに【完】
「京極くん」
肩を揺さぶられ、遠慮がちに呼ばれた。
のろのろと瞼をひらく。
いつもすっきりと目を覚ます僕が、こんなふうに起きるのはめずらしい。
どうしたものかな、と何度か瞬きすると、眉を八の字に下げた小町さんが僕を見下ろしていた。
どうして小町さんがいるのだろう。
ああ、そうだ。
雨に濡れてやってきて、藤井に彼女ができたと言って――そのあとは。
「京極くん。いま、3時だよ。夜中の3時。あ、3時って夜じゃなくて明け方なのかな」
「3時?」
「うん。わたしもさっき起きて」
そういえば暖房をつけて、ぬるい風に瞼を撫でられているうちに、うとうとしてしまったような気がする。
まさか、ふたりして眠ってしまうとは。
欠伸をかみ殺していると、彼女の腫れた瞼から覗く瞳が不安げに揺れた。
「ごめんね。私のせいで」
「いや、小町さんのせいじゃ……」
「すぐに帰るね。今日は本当にごめんなさい。今日はっていうか、今日も、だけど」
「帰るって、まだ電車動いてないでしょう。
電車が動くまでここにいたら? 小町さんの迷惑でなければ」
告げてから、変な下心があると思われないか不安になった。
小町さんが静かにはにかむ。