垂涎、午睡、うららかに【完】
「あの……。私が食材を切ってもいいかな。
京極くんがさっき言ってたこと、試してみたくて」

「いいけど、効果があるかは……」

「いいのいいの。まずは試してみたいから。
すごいね。自分じゃ思い浮かばないことを教えてもらえるのって。
昨日までは自分が一人ぼっちみたいな気がしてたけど、なんかいまは違うよ。
あ、クサいこと言っちゃったかな。忘れてね、いまのは」

小町さんは口を押さえ、笑顔をこぼした。
カップケーキのエプロンをつけ、キッチンへ入ってくる。

「あれ。この写真、もしかして京極くんのお姉さん?」

冷蔵庫に貼られた一枚の写真。
終電を逃したと言ってうちにやって来た姉が、ふざけて貼っていったものだった。
後で剝がせばいいと思って、ずるずるとそのままにしていた。

咄嗟に、小町さんと冷蔵庫の間に身体を滑り込ませる。
彼女のちいさな口がぽかんと開く。
こんなに彼女と近づくのは、はじめてだった。

もしかしたら怖がらせてしまったのかもしれない。
男の藤井ですら「京極はでか過ぎる」というくらい、背は高かった。
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