垂涎、午睡、うららかに【完】
カレーを食べたあとは、恥ずかしいことにまたソファーで眠ってしまい、けっきょく昼過ぎに京極くんのアパートを出た。
いつもはメッセージなんて送ってこない京極くんが、その日だけは『家についた?』と送ってくれた。
3パターンだったメッセージに4つ目ができた。


わたしはいまも、こうして毎週のように京極くんのアパートへやって来る。

肉じゃがを食べさせたい相手はもういない。
それでも、足が、心が、ここへ向かう。



カレーのつくり方を教えて。
ホワイトソースって手作りできるの?
唐揚げ作ってみたいけど、油がこわいから一緒にやってくれないかな。

理由は次々と浮かんだ。



お腹を満たしたいのか、最高の昼寝をしたいのか、安心する香りに包まれたいのか。
ここへ来る理由はよくわからない。


わからない、けれど――この、よくわからない感情を、くつくつとあたためていきたい、とは思う。


「そういえば小町さん、前よりはソファーで熟睡しなくなったね」

「それはだって、京極くんが」


消臭スプレーを部屋中にかけるようになって、ソファーから京極くんの香りがしなくなったから――と言いかけ、のみ込む。


「僕が、なに?」

「ううん。なんでもない」


あたためよう。
ゆっくりと。





――― 了 ―――
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