垂涎、午睡、うららかに【完】



「京極くんに教えてもらったとおりにつくったはずなんだけど」

肉じゃがの入ったまだ温かいタッパーを差し出すと、京極くんは小皿に取り分けて箸をつけた。
伏せられた睫毛がゆっくりと上がり、品のいい唇がひらく。

「味が、濃い。あと肉が少し固い」

「だよね? なんでだろう。量だって時間だって、ちゃんとはかったんだけどなあ。
でも、まずくはないし、食べられはするからいいよね。
ご飯が進むっていうか、一口でご飯三口はイケるよね。ある意味、お得?」

小町(こまち)さんって、おもしろいよね」

「え、そう?」

わたしが訊くと、京極くんはおもしろくもなんともないような顔で「うん。おもしろいよ」と答えた。


藤井くんの幼なじみである京極くんはじつは料理上手で、不摂生な藤井くんはたまに京極くんのアパートにやってきては食事をする(というか、勝手に冷蔵庫を漁る)らしい。

いつもみんなの輪の中心にいる藤井くんと、静かに読書ばかりしている京極くん。
見た目も性格も正反対な二人が、そこまで親しいのは意外だった。
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