垂涎、午睡、うららかに【完】
京極くん(いわ)く、「母親同士が親友で、その延長線のようなもの」だそうだ。
「そんなつめたい言い方するなよ」と藤井くんは唇を尖らせたけれど、京極くんは訂正することも、表情を崩すこともなかった。


延長線でも、なんでも。
藤井くんとつながっている線のある京極くんが、藤井くんに唇を奪われた京極くんが、うらやましくて仕方がない。

藤井くんにとってのわたしは「同じ大学で、たまに話す人」。
もし京極くんが女の子だったら、嫉妬やプライドが邪魔をして「肉じゃがのつくり方を教えて」なんて頼めなかっただろう。

正確には「頼む」というよりも、脅しのようなかたちだったけれど。


包丁もまともに使えず、じゃがいもの芽に毒が含まれていることも知らなかったわたしは、週に一度か二度、こうして京極くんのアパートへやって来る。

まだまだ上手とは言えないけれど、ひとりでも「それっぽい肉じゃがをつくる」というところまではたどり着けた。
これは大きな快挙だ。

なぜならわたしは、母親からも友達からも「ここまで料理できない人間をはじめて見た」と呆れるを通り越して、感心されるレベルの人間だったのだから。
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