垂涎、午睡、うららかに【完】
「きれい好きなの? それとも掃除好き? あ、これって同じ意味になるのかな」

「好きとかじゃないよ。物が多ければそれだけ手間が増えるし、部屋が荒れていれば視覚的にリラックスできないからであって」

「なるほど。効率的ってことだね。
そういえば、料理も別に好きなわけじゃないって言ってたよね。健康面と金銭面を考えてのことだって」

考え方の根本が、京極くんとわたしとでは大きく違うな。
雑貨やぬいぐるみであふれ返った自分のアパートを頭に浮かべながら、そう思った。

リボンの形をしたビロードのクッション。
テンションを上げてくれる、きらきらのメイクブラシ。

生きていくうえで絶対に必要か、と問われればそうではないけれど、それでも好きだと思うものに囲まれていることが、わたしにとっての至福。

「小町さん、エプロンつけたまま電車に乗ってきたの?」

「わ。気づかなかった! えー。早く言ってよ」

「僕が早く言ったところで、もう電車に乗ったあとでしょう」

「そっか。それもそうだね」

ふふふ、と笑いながらエプロンを外した。
もちろん京極くんは笑わない。
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