垂涎、午睡、うららかに【完】
まずは形から入ろう、と奮発して買ったカップケーキ柄のピンクのエプロン。
少し子どもっぽいかな、と思ったけれど、京極くんの言葉を借りるならば「視覚的に満たされないと料理をする気にはなれない」のがわたしだ。
汚れるのがわかっていても、かわいさ重視でエプロンを選ぶ。

「京極くんは今日はなにしてたの」

「調べもの。先週の講義で気になったところがあったから。
ところで小町さん。この肉じゃが、どうするの」

「しょっぱいけど食べるよ。ご飯が進みまくりそうで危険だけど」

「これ、よかったらアレンジしてもいいかな」

「え? いいけど……」


そこからの京極くんの手さばきは、じつに見事で鮮やかだった。


さらりと深緑色のエプロンをつけ、キッチンのなかでてきぱきと無駄なく動いては、肉じゃがに迷いなく水やスパイスを加えていく。
どうなるものかと見守っていると

「もしかして、カレーにリメイクしたの?」

漂ってくるスパイシーな香りに鼻先をくすぐられた。
京極くんが短く頷く。
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