春色の屍 【完】
たまには遊びに来る、と先輩は言うけれど、そうならないことは想像がつく。

新しい世界の方が魅力的に見えてしまうに違いない。
私自身も中学のときの友達とは、気づいたら疎遠になっていた。

「ずっと」だとか、「これからも」だとか、言っているときは心からの言葉でも、人生が一マス進めばその言葉は薄まる。


私はせめてもの思い出として、ハンバーグ専門店へと先輩を誘った。



――卒業のお祝いに、今後は私がご馳走します。
だから、先輩と桐野さんと私の三人で行きましょう。



さすがに二人きりで、とは言えなかった。
先輩は「いっぱい食べるから覚悟しておけよ」と私を小突いた。



だけど、雲行きは大きく変わってしまった。



「え、桐野さん風邪ひいたんですか」

「そう。ちなみに美術部、全員風邪。全滅」

卒業式の前日、待ち合わせていた昇降口で、先輩は飴玉を転がしながら言った。
大玉の飴が右に揺れ、左に揺れ、私の心臓も左右に揺れた。
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