春色の屍 【完】
「そういえば、この前みんな咳き込んでましたね」

「これじゃあシャチと俺だけが図太い奴みたいだよな。
ナントカは風邪を引かないっていうしさ」

あはははは。乾いた声で笑い返す。

これは、どうなるだろう。
「だから行くのはやめよう」? 「だから二人で行こう」?


今日を逃したら、こんな機会はもう二度とない。


「ってわけで、シャチと俺の二人で行こう」

「……はい」

ほっとして胸が軽くなって、だけど緊張が背後からやってきて。

手がつけられないくらいぐちゃっとまざった感情で、泣きだしそうになった。
鼻の奥がツンと痛い。

「なんだよ、いまの()は。俺と二人じゃ嫌なのかよ。
ってか、なんでシャチってマフラーとかしないの」

「ああ、これは」

「ぜったい寒いだろ。これ巻いとけ」

そう言って、先輩は私の首にぐるぐるマフラーを巻いた。

ふわりと立ちのぼる、先輩の香り。
あたたかいどころか一気にあつくなる。

髪の毛に癖がつくのが嫌で、寒くてもずっと巻いていなかったマフラー。
今日だけは、癖がついたっていい。

「じゃあ、行こうか」


かみさま、ありがとうございます。

信仰心なんてろくにないくせに、私は天に向かってお礼を告げた。
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