春色の屍 【完】
ちょうど夕飯時だったせいか、お店は混んでいた。
順番待ちの表に名前を書いて、先輩と並んで椅子に座る。
ときおり触れる膝がこそばゆくて、先輩となら何時間だって、何日だって、永遠に並んでいられると思った。そうであって欲しかった。
明日になってしまったら、先輩と私は――。
「二名でお待ちのタナカさまー」
「はい」
名前を呼ばれて席を立つと、先輩は不思議そうに私を見た。
「俺もシャチもタナカじゃないじゃん」
「私、こういうときはタナカって書くんです。
鯨井って名字はめずらしいから、呼ばれると周りの人にちらっと見られるし、お店の人も首を傾げながら呼んだりするし」
「シャイだなあ、シャチは」
鯨井って名字だったから。
だから先輩はシャチと呼び名をつけてくれた。
改めて考えて、私はまた泣きだしそうになった。
先輩と私は今日もカレーを注文した。
「いちばん高いやつ頼んじゃってくださいよ」と言っても、先輩は譲らなかった。