春色の屍 【完】
「最後なのに」

「最後だからだよ。俺、ここのカレーがいちばん好きだから」

「この前、購買のカレーパンがいちばんって言ってませんでした?」

まぜっかえすと先輩は笑った。
だけど、その笑顔はいつもと違う。

爪を立てれば破れてしまいそうな、薄い笑顔。

ちりっと痛む想いを殺して、私はその薄膜に爪を立てた。

「……先輩は、大丈夫なんですか」

「え。なに、俺? 咳も熱もないし、めっちゃ元気だけど」

「本当にそうですか」

「なんだよ、元気だよ。カレーおかわりしようかなってくらい、元気だよ」

先輩の嘘に気づけないような、そんな軽い感覚で先輩を好きになっていたらよかった。

痛いくらい、わかってしまう。

先輩がいま考えていることが。
先輩の心がここにないことが。

「先輩、行ってください」

「行くって、なに言ってんの」

「心配なんですよね。好きなひとのことが」

ああ、言ってしまった。

言わなきゃいいのに。
言わなかったら、二人きりでいられたのに。

自分がものすごくばかに思えた。
だけど、言わなかったら、ばかにならないかわりに最低になってしまう。

きっと一生、後悔する。
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