君のために胸が鳴る。
玲奈と別れて数分後、いつの間にか学校の門限が迫っていることに気付き、部活が終わった颯太と慌てて合流する。
「廉人遅いー」
「マジでごめん!…って」
ぶーぶー文句を言う颯太の手に、10円チョコが握られているというなんとも珍しい異様な光景に目を見開く。
「天下の江藤颯太を10円チョコであしらう女子とか、この世にいるんだな」
「ん?あぁ、これ?玲奈だよ、玲奈」
なるほど、それなら納得がいく。その時、門限5分前のチャイムが鳴り響き、俺たちはとりあえずダッシュで校門の外まで移動する。
「…で、なんの話だったけ?」
結構長い距離を走ったのにも関わらず、息切れをする素振りすら見せない颯太はゆっくりと歩き出す。
俺もその隣に並び、「玲奈の10円チョコ」と簡潔に答える。
「あぁ、そうそう。なんか『用意すんのが面倒くさくなったから〜』って何ひとつ誤魔化そうともせず渡して帰ってったよ」
「うん、玲奈ならやりかねん」
「珍しく玲奈がチョコくれたと思ったら、まさかというべきか案の定というべきかな展開だった」
「ま、玲奈だしな」
俺と颯太は二人揃って苦笑する。って………あれ?
俺は不意に違和感を覚えて、颯太に念の為にもう一度尋ねる。
「それくれたの、本当に玲奈、だよな?」
「え、うん」
「10円チョコ?」
「さっき言った通りだけど………」
「だよ、な………」
ん?んんんんん??
俺はかばんの中に大事に閉まったチョコを取り出す。紛れもなくさっき玲奈がくれたものだし、紛れもなく10円チョコではない。
この時になってやっと、いつもと違うボール型チョコの、見慣れないラッピングが心に引っかかった。
いや、正確に言えば見慣れてはいる。だってこのリボンと袋は、颯太に渡してとお願いされるチョコの包装によく使われているものだから。
よく見てみたら、チョコ一粒一粒の大きさが違う気もする………。
不思議そうに横から俺の手元を覗き込んでくる颯太を一旦無視して、俺はリボンを解いてサッカーボール柄のチョコを一粒取り出す。
そっと銀紙をめくり、現れた物体に俺は息を呑む。
「トリュフ…?」
「………だよな」
颯太の言葉に俺は同意する。
銀紙に包まれていたのは、ココアパウダーがまぶせられているトリュフチョコレート。もちろん、市販のボール型チョコはトリュフではなく、普通のミルクチョコレートを固めたもの。
「ん、廉人、なんか手紙入ってない?」
颯太の言葉に俺は初めて折り畳まれたメモ帳が同封されていることに気付く。我ことながら、さすがに鈍いにも程がある。
自分で自分に呆れつつ、俺はメモ帳を開く。そこには玲奈特有の丸っこい字で、こう記されていた。
『念願の手作りチョコだよ♪嬉しいでしょー』
俺はもう一度、銀紙の中のトリュフを見つめる。コロコロしたトリュフは完全な球体ではなくて、ところどころでこぼこしていたりココアパウダーがかかっていなかったりしている。
思わずぷっと吹き出す。
「ほんっと、不器用だなぁ」
このチョコもメッセージも。『手作りは本命にしかあげない主義だから』っていう遠回しな言い方も。
でもそんなところを含めた玲奈が、俺はずっと好きなんだ。
「やっっっっと、前に進むみたいだな」
隣で颯太が感慨深げな声を漏らす。
「まぁこっからが大変なんだろうけど」
ちょっといじわるに笑う颯太につられて、俺も笑みをこぼす。
『お返し、期待しとくね』
そう照れくさそうに、どこかお願いするように言った玲奈の言葉を思い出す。
きっと、玲奈が期待しているお返しはチョコとかクッキーのお菓子じゃない。コスメやポーチなどの雑貨でもない。
俺と同じで、たった2文字の言葉が欲しいだけなんだ。
「………分かったよ」
屋上では言えなかった返事を、俺は今ポツリと呟く。
不恰好でも不器用でも、ちゃんと俺の想い、伝えるよ。
だって、どれだけ俺がカッコ悪い姿を見せても、玲奈は笑って受け入れてくれる。明るい花が咲くような笑顔を見せてくれる。今までも、ずっとそうだったから。
それに、不恰好なことよりも不器用なことよりも、中途半端なことをしていることが一番駄目だと、玲奈が気付かせてくれたから。
俺は改めて、掌にちょこんと乗ったチョコを眺める。喜びと嬉しさが一気に押し寄せてくると同時にトクン、と小さく胸が鳴る。
あぁ、幸せだなとしみじみと思う。
きっと俺は玲奈のことで、この先もずっと頭を悩ませると思う。けれど、その何倍もの時間を笑ってふざけ合って、楽しく過ごすんだろうとも思う。
そしてその度に、俺は昔も今もきっとこれから先もずっと、
君のために胸が鳴る。
「廉人遅いー」
「マジでごめん!…って」
ぶーぶー文句を言う颯太の手に、10円チョコが握られているというなんとも珍しい異様な光景に目を見開く。
「天下の江藤颯太を10円チョコであしらう女子とか、この世にいるんだな」
「ん?あぁ、これ?玲奈だよ、玲奈」
なるほど、それなら納得がいく。その時、門限5分前のチャイムが鳴り響き、俺たちはとりあえずダッシュで校門の外まで移動する。
「…で、なんの話だったけ?」
結構長い距離を走ったのにも関わらず、息切れをする素振りすら見せない颯太はゆっくりと歩き出す。
俺もその隣に並び、「玲奈の10円チョコ」と簡潔に答える。
「あぁ、そうそう。なんか『用意すんのが面倒くさくなったから〜』って何ひとつ誤魔化そうともせず渡して帰ってったよ」
「うん、玲奈ならやりかねん」
「珍しく玲奈がチョコくれたと思ったら、まさかというべきか案の定というべきかな展開だった」
「ま、玲奈だしな」
俺と颯太は二人揃って苦笑する。って………あれ?
俺は不意に違和感を覚えて、颯太に念の為にもう一度尋ねる。
「それくれたの、本当に玲奈、だよな?」
「え、うん」
「10円チョコ?」
「さっき言った通りだけど………」
「だよ、な………」
ん?んんんんん??
俺はかばんの中に大事に閉まったチョコを取り出す。紛れもなくさっき玲奈がくれたものだし、紛れもなく10円チョコではない。
この時になってやっと、いつもと違うボール型チョコの、見慣れないラッピングが心に引っかかった。
いや、正確に言えば見慣れてはいる。だってこのリボンと袋は、颯太に渡してとお願いされるチョコの包装によく使われているものだから。
よく見てみたら、チョコ一粒一粒の大きさが違う気もする………。
不思議そうに横から俺の手元を覗き込んでくる颯太を一旦無視して、俺はリボンを解いてサッカーボール柄のチョコを一粒取り出す。
そっと銀紙をめくり、現れた物体に俺は息を呑む。
「トリュフ…?」
「………だよな」
颯太の言葉に俺は同意する。
銀紙に包まれていたのは、ココアパウダーがまぶせられているトリュフチョコレート。もちろん、市販のボール型チョコはトリュフではなく、普通のミルクチョコレートを固めたもの。
「ん、廉人、なんか手紙入ってない?」
颯太の言葉に俺は初めて折り畳まれたメモ帳が同封されていることに気付く。我ことながら、さすがに鈍いにも程がある。
自分で自分に呆れつつ、俺はメモ帳を開く。そこには玲奈特有の丸っこい字で、こう記されていた。
『念願の手作りチョコだよ♪嬉しいでしょー』
俺はもう一度、銀紙の中のトリュフを見つめる。コロコロしたトリュフは完全な球体ではなくて、ところどころでこぼこしていたりココアパウダーがかかっていなかったりしている。
思わずぷっと吹き出す。
「ほんっと、不器用だなぁ」
このチョコもメッセージも。『手作りは本命にしかあげない主義だから』っていう遠回しな言い方も。
でもそんなところを含めた玲奈が、俺はずっと好きなんだ。
「やっっっっと、前に進むみたいだな」
隣で颯太が感慨深げな声を漏らす。
「まぁこっからが大変なんだろうけど」
ちょっといじわるに笑う颯太につられて、俺も笑みをこぼす。
『お返し、期待しとくね』
そう照れくさそうに、どこかお願いするように言った玲奈の言葉を思い出す。
きっと、玲奈が期待しているお返しはチョコとかクッキーのお菓子じゃない。コスメやポーチなどの雑貨でもない。
俺と同じで、たった2文字の言葉が欲しいだけなんだ。
「………分かったよ」
屋上では言えなかった返事を、俺は今ポツリと呟く。
不恰好でも不器用でも、ちゃんと俺の想い、伝えるよ。
だって、どれだけ俺がカッコ悪い姿を見せても、玲奈は笑って受け入れてくれる。明るい花が咲くような笑顔を見せてくれる。今までも、ずっとそうだったから。
それに、不恰好なことよりも不器用なことよりも、中途半端なことをしていることが一番駄目だと、玲奈が気付かせてくれたから。
俺は改めて、掌にちょこんと乗ったチョコを眺める。喜びと嬉しさが一気に押し寄せてくると同時にトクン、と小さく胸が鳴る。
あぁ、幸せだなとしみじみと思う。
きっと俺は玲奈のことで、この先もずっと頭を悩ませると思う。けれど、その何倍もの時間を笑ってふざけ合って、楽しく過ごすんだろうとも思う。
そしてその度に、俺は昔も今もきっとこれから先もずっと、
君のために胸が鳴る。