君のために胸が鳴る。
「廉人、分かってくれたかなぁ」
星が2、3個顔を覗かせる夜空を見上げて私は呟く。さすがに鈍感な廉人でも、あそこまで仄めかせば気付くはずだよね。
まぁ、自分でも回りくどい方法だとは思うけど、こうなってしまったのにはそれなりのわけというものがある。
「…あれは中々にこたえたからなぁ」
私が廉人にバレンタインチョコを渡そうとしたのは、実は今回が初めてではない。ずっと渡したい渡したいと思っていて、初めて行動に移したのが去年のバレンタイン。
張り切ってカップケーキを作ったり、めちゃくちゃ想いを込めたメッセージカードを書いたりもした。けど、渡す寸前で怖くなってどうしたらいいのか分からなくてなって…。
結局、颯太へチョコを渡してほしいと集まる女子に紛れて、そっと廉人へのチョコを置いていった。
もちろん、あの鈍感極まりない廉人がその存在に気付くはずもなく、颯太宛てのチョコと一緒に紙袋に入れられてしまった。
それを放課後、一人でこっそり颯太のもとへと向かい、多少の気まずさを抱きながら一連の流れを説明して、無事にチョコは回収できた。
その時にはもうすっかり気分が沈んでいて、渡そうという気力は失われていた。そのことをなんとなく颯太に伝えたら、なんとも言えない微妙な顔をされた。
『本当にもういいの?』
『…うん』
『別に今からだって遅くないし、廉人だって喜ぶよ、絶対』
『でも、いいの。多分今年は渡せない運命だったんだよー。それに、ちょっと恥ずかしいし』
『じゃあ、なんで泣いてるの?』
『それは………』
口ではなんとでも言えるけど、やっぱり顔には出てしまう。颯太の言う通り、私の目元には涙が滲んでいた。それだけ、つらかったし悔しかった。何より、大事な場面で躊躇った自分が一番情けなかった。
だから、今年は絶対に失敗したくなかった。その結果、かなり回りくどくて廉人の解釈に任せる方法になってしまったところに往生際の悪さが現れている気もするけど。
何はともあれ、今年の私は頑張った。
後は、廉人が私の言葉の意味を正しく理解してくれているかどうか。
『お返し、期待しとくね』
…なんて、廉人でなくてもそのままの意味通りに受け取ってしまいそうな曖昧な言い方しなくてもよかったんじゃ………いやいやいや、『返事待ってるね』はいかにも不自然さ丸出しだし………でも、
「廉人なら、大丈夫か」
鈍感で中々私の廉人への想いには気づいてくれない。でも不思議と、この言葉の意味には気付いてくれるという信頼と安心感はある。本当に、何故かは分からないけど。
だからきっと、返事はくれる。告白かどうか分かりにくい私の告白への返事は絶対にくれる。
問題は、それが私の欲しい言葉かどうか。たった2文字、されど2文字。言ってもらうのはかなり難しい。
…けど、絶対言わせてみせる。
そう固く決意した時、私の胸がトクンと小さくなった。
あぁ、本当に好きなんだな、廉人のこと。
そう改めて実感してちょっと笑ってしまう。
私は昔も今もきっとこれから先もずっと、
君のために胸が鳴る。