まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
ある男たちの集会
「あやつを始末するのに失敗したらしいな」
「面目次第もございません」
大広間に狩衣の人物が数名集まり、下座のものが首を垂れていた。
燭台の火が揺れる。
「いいか、あやつは火宮家の汚点だ。早急に始末せねばならん」
「心得ております」
下座の中でも中心にいる男は、下を向きながら悟られぬよう舌打ちした。
本来なら、失敗するはずのない作戦だったからだ。
火宮家の長子、桜陰には、才能がない。
五大名家である火宮家の、しかも本家には相応しくないのだ。
だから、消そうとした。
あれが学校で広めた召喚の術は、素人がそうそう習得できるものではない。
だというのに、不完全な形で、何百人もの人間が瞬間的に多用したのだ。
中には、あれよりも適正のある者もいただろう。
だが、成功はしなかった。
当たり前だ。
あれに正しい召喚の方法など、誰も教えていないのだから。
資料室か、我々の訓練か、何かしらの見様見真似だ。
中途半端にできた道は、悪いものを呼び寄せる。
暴走の始まるギリギリの今、責任を問い、事故に見せかけて始末するつもりであったのに、事もあろうに生きて帰ってきた。
しかも、討伐に成功して、だ。
火宮家の有能な術者でも、十人は必要になる敵だったはず。
それを、人避けの術すらまともに使えないあれが、無傷で帰ってきただと?
いったい、どんな手を使ったのか。
実は才能があった?
あり得ん。
あれから感じる霊力は分家の下級術師にすら及ばない。
協力者を得た?
それもない。
術師、特に名家ともなると、横のつながりも強い。
あれを貶める者はいても、不利になると分かっていて協力する者などいまい。
ならばなぜ、失敗したのか。
残る可能性は、あの呪いは未完成だった。
成長過程にもかかわらず無理矢理引き摺り出されて、進化を遂げる途中に抵抗の術なくやられてしまった。
あれに対処できたということは、そういうことなのだろう。
まったく、見誤ることなく完成するまで放置していれば、どれほどの脅威となったのだろうな。
惜しいことをした。
「次こそ仕留めろ。失敗は許さん」
「はっ」
当主の声に、より深く頭を下げる。
よくもまあ、実の息子を始末しろと言えるものだ。
だが、出世の為、ありがたく利用させてもらおう。