まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
2
大魔王
朝起きて、準備して、学校へ行く。
いつもと変わらない日常だ。
授業を受けて、移動教室もあり、体育もあったけど、体育館に穴は空いてなかった。
昨日のことは白昼夢だったのかもしれない。
そんなことを思って昼休み。
弁当を食べ終わり、意味なくスマホを触っていると、廊下から悲鳴が聞こえた。
「え、イケメン……」
「火宮先輩だ」
「うそっ、なんでここに?」
「スタイル良……!」
「こっち見た!」
「火宮先輩! どうして1年の教室に?」
「誰か探してるんですか?」
「ああ、ちょっとね」
女子達の質問の声に、火宮先輩だろう声は軽く流した。
だというのに、黄色い悲鳴があがる。
塩対応なアイドルのファンサかな。
握手会とか行ったことないけど。
そんなに騒がれるイケメンなら、どんなものか拝んでみたい気持ちもなくはないけど、面倒だしいいや。
でも、隙間から見えたりしないかな、と人だかりを見ていると、女子達の頭の上から長身の彼の顔があらわれた。
確かにイケメンだと思った瞬間には、目が合った錯覚に陥る。
それだけなら気の所為で済むが。
「見つけた」
と、彼の唇が動いた気がした。
私は咄嗟に顔を伏せ、寝たふりを決め込む。
あの綺麗な顔は、忘れるはずがない。
忘れていたかもだけど、一瞬で思い出した。
昨日、大型の蛾相手に、中型犬を相棒に刀で戦ってた男子生徒だ。
こっちに来るなと、祈ったところであっちはお構いなし。
「こんにちは」
すぐ目の前で声がした。
実は勘違いだったの可能性に賭けて顔を上げると、整った顔が否を言わせない笑顔で見てくる。
背中を冷や汗が伝う。
「君だよね、昨日の体育館に来たの」
私は賭けに負けた。
何のことでしょう、と誤魔化せれば良かったのだけど、周囲の注目を浴びている今、小心者の私は声が出ない。
それを肯定と受け取られたらしい。
間違っちゃいないが、認めたくないな。
「ここは人目が多い。場所を変えようか」
立ち上がり、廊下側へ数歩進んだところで彼は振り返る。
座ったまま動かない私に向けて一言。
「もしかして、エスコートが必要かな? お手をどうぞ」
左手を差し出す仕草ですらイケメンな振る舞いに、女子だけでなく男子からも歓声があがる。
「……結構です」
だけど、応じるわけにはいかないよ。
周りの目が怖すぎる。