まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
翌日の放課後、歓声が近くなる。
このパターンは知ってる。
奴が来る前兆だ。
顔を出される前に逃げるが吉。
スクールバッグに適当に詰め込んで、チャックも閉めないまま教室を出る。
そのまま下駄箱まで……。
「ぐべっ!」
走り去ることはできなかった。
自分の脚に足をひっかけて転んでしまう。
バッグの中身もぶちまけてしまい、捨て置くわけにもいかない。
ちくしょう、よりによってこんな時に運動神経のなさを発揮しなくてもいいのに。
泣きそうになりながら散らばったノートなどを拾っていると、目の前に私の筆箱を差し出してくれる手。
見上げると、うさんく爽やかイケメン火宮先輩だった。
「まったく、そそっかしいんだね」
キャアァァと、周囲から悲鳴があがる。
「………いりませんよ、こんなお約束」
「慌てなくても、迎えに行くって言ったろ?」
「……いりませんよ」
「俺に稽古つけてほしいっつったのは、どこのどいつだ?」
「それとこれとは別っていうか………」
爽やか笑顔で大魔王セリフ吐くとは、なんと器用な。
火宮先輩に拾ってもらうためか、女子達が可愛い悲鳴とともに物を落としまくるので周りには聞こえていないだろう。
「おい、行くぞ」
「ちょっ、待って、私の荷物!」
「返して欲しければ、ついてこい」
「ああもう、普通逆じゃないの!?」
「いいから来い。エスコートが必要か?」
「それはほんとにいらない」
ぶちまけた荷物の収められた私のスクールバッグを物質に、爽やかイケメンの皮をかぶった俺様大魔王が物拾いのファンサしながら進む。
気付けば、拾ってもらうための列が廊下の先の方まで出来ていた。
最後尾には【最後尾】と書かれたノートを広げ、誘導する女子生徒。
手慣れてますね。
非公式ファンクラブのかたですか?
………………で、私は、この列の前を、火宮先輩の後ろからついていく形で、通らなければならないのかな?
先に校門のところで待ってて良いかな?
でもカバン………。
悩んだ末に、遠くから眺めることにした。
私以外にも野次馬は多かったから、特に目立ちもしない。
流石に、部活の始まる時間には列が終わった。
誘導していた女子生徒は火宮先輩に礼を言われて赤面していた。
ああ、彼女、本当に火宮先輩が好きなんだな。
それをいうなら、列に並んでいた女子たちもそうか。
ファンサの終わった火宮先輩が来る。
「さて、行くか」
「はい」
スクールバッグを返してもらい、肩にかける。
私たちは人のいなくなった廊下を歩き、学校を出た。