まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
「話はまとまったようだな」
私とイカネさんの世界に邪魔者が入り込んだ。
「…………そうなると、俺が教えられることはないな」
「なんで?」
戦いを教えてくれるって言ってたのに?
私の視線に気付いたのか、揶揄うように笑う。
「だってお前、運動音痴だろ。……プッ………。俺みたいな接近戦はやめとけ」
イカネさんが何度も頷いた。
そういうことですか。
二人して酷いな。
けれど、何も無いところで自分の脚に躓く私だ。
悔しいけど、否定はできない。
「俺の知ってる式神使いは、式神に戦わせて、本人は遠く離れた安全なところにいる奴だからな」
「なにそれ最低ですね」
「わたくしとしても、安全なところでお待ちいただきたいのですが……」
「えっ……」
召喚者は安全なところで待機が常識なの?
イカネさんもそれを推奨派?
「術者がやられたら式神も消える。高位の式神を呼び出すなら、消費する霊力も甚大。俺みたいな、霊力にあまり頼らない接近戦でもない限りまともに戦えないが………無理だろ」
やる前から無理って決めつけるなんて、酷いじゃないかと思いながらも反論はできない。
私の体育の成績の悪さをなめるなよ。
「しかし、月海さんの場合、護ってくださる仲間がいませんから、わたくしの側が一番安全でしょう。幸い、わたくしは中距離が得意な術師ですから」
「………絶対、私がイカネさんを護る側になってやる」
苦手な運動だって、頑張る。
「うふふ、楽しみにしていますね」
闘志を燃やしていると、火宮桜陰が腕を組む。
「高位の式神使いが、どれだけ他の術を使えるかわかんねぇが。………試してみるか。前例があるんだ。どうにかなるだろ」
理不尽俺様大魔王だと思ってたけど、意外と良い奴ですね。
「俺だって、術師の才能ないから身体鍛えてんだ。挑戦する奴を笑ったりしねぇよ」
「そう言う割に、顔がにやけてますけど」
「フッ………書庫から色々持ってくるから、待ってろ」
緩む顔で肩を揺らしながら、火宮桜陰は稽古場から出て行く。
中型犬は先輩の出て行った戸の前で、忠犬よろしく待機していた。
早まったかなと一瞬思う。
でも、イカネさんのしたいことをする為には、火宮桜陰と一緒にいるのは悪いことではない。
むしろ理にかなってるというか……。
少なくとも彼は、第一印象ほど悪い人では無いように思う。
しばらくして、火宮桜陰が持ってきた書物に書いてある術を試した。
まずは威力の弱いものからと、手のひらほどの火を生み出す術で、一粒の火花が弾けた。
「やった、できた!」
「月海さん、すごいです! 初めてとは思えません!」
「出来たもんかよ、ちいせぇな」
火柱をたてる術で、焚き火ほどの火が燃える。
「今度こそ!」
「月海さん、すごいです! 感覚を掴まれましたね!」
「この程度かよ、ヘタクソ」
この先輩さっきからうるさいな。
イカネさんを見習って褒めてよ、はじめてなんだから。
むかついたので奴に向かって火の玉を発射すると、刀の一振りで呆気なく消えた。
「鬼火の方がまだ燃えたぜ」
「ちっ………」
本当なら、人ひとり丸焼きにする威力の術だったはず。
全て弱すぎて、お世辞にも戦いに使えるなんて言えない。
「お前、センスねぇな」
かわいそうなものを見る目で見られた。
術の使えない先輩に言われたくありませんよ。
「………ほかの術はないのですか?」
「うちにあるのはこれだけだ。火宮は火の術師の家系なんだよ」
だから、火炎の術の指南書しかないと。
「先輩のその刀はなんですか?」
この際武器に頼るしか………。
「俺の霊力を纏わせて切れ味を増させただけの刀だ」
つまり、私には使えないと。
あまりの情けなさを自覚すると、急に身体が重くなる。
「あー。なんか疲れたかも。頭痛い………」
「当たり前だ。初心者のくせにこれだけ術を使ったんだ、疲弊もする。…………それでも普通、もっと早くに倒れるんだがな………」
「……先輩、もう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか? 私、初心者ですよ?」
「馬鹿か? 甘いこと言ってたら、死ぬぞ」
真剣味を帯びた火宮桜陰の迫力に圧倒された。
反射的に正座し、背筋がのびる。
多少の適性があったからといって、気楽に飛び込んでいい世界じゃない。
命を落とすことだってある世界だと言っている。
「練習したら上達するかもしれない。明日からは毎日うちに来い。くれぐれも、外で術使ったりすんじゃねぇぞ」
「わ、わかってますよ……」
「人に向けるのも無しだ」
「はい……」
これは、さっきの火の玉のことを言ってますね。
あれは失敗したからよかったものの、もし成功していたら先輩は死んでたかもしれないんだ。
いくらむかついたからといって、やっていいことじゃなかった。
「ごめんなさい」
「わかればいい。妖魔を斃す力でも、使いようによっては人を殺す武器になる。見失うなよ」
「………はい」
「この結界の中なら、建物の破壊も、ある程度の怪我も無かったことにできるから、特訓は本気でいくぞ」
「はい!」
こうして、私と火宮桜陰との特訓の日々が始まった。