まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
稽古
放課後になると先輩の家に行き火柱の特訓。
夕飯前に家に帰り、ここ最近毎日いる妹の彼氏と鉢合わせないよう部屋に籠る。
そんな生活を過ごして10日ほど。
現時点で、あまり特訓の成果は見られない。
でも、ちょっとだけ火力が上がったかもしれない。
そんなことを思った金曜日。
火柱をたてる術でできた焚き火でマシュマロを焼く。
目の前では、火宮桜陰がイカネさんの放つ氷柱を躱し、刀で弾く。
氷柱の数が増え、捌き切れなくなった彼の身体に無数の傷ができたところで攻撃が止んだ。
休憩だ。
中型犬が彼に駆け寄り舐め回す。
痛々しく見えるが、結界内だから、傷が浅く済んでいるらしい。
私が火柱の術の訓練をしている間、イカネさんと火宮桜陰は実戦稽古をしていた。
いつもボロボロにやられる彼を、中型犬が舐めて治す。
なかなか強くなれない者同士、私と火宮先輩の仲は深まったように思う。
おつかれの意味を込めて、串に刺した焼きマシュマロを渡すと、先輩が思い出したように言った。
「お前、明日うちに泊まれ」
「はぁ!?」
何をいきなり言い出すんだこのお方は。
イカネさんも、焼きマシュマロに舌鼓を打ちながら首を傾げていた。
「俺がここを使えるのは夕方だけなんだが、明日はもう少し使えそうなんだよ」
術師が強くなるには術を使い続けるのが一番だから、ここにいる間、極力術を使い続けるというのは、初めの頃言われた。
「………何かあるんですか?」
疑問を口にして、失敗したと思う。
人様のおうちの事情を知って、何になるというのだ。
だが、彼は気を悪くした様子もなく答えてくれた。
「火宮の家の集会だよ。分家とか、縁者が来る。親戚の集まりみたいなもんだ」
「へぇ。じゃあ、先輩もそれに参加するんですね」
私ひとりここを使わせてもらって、焚き火するのか………。
キャンプみたいで楽しそうかも。
「いや、俺は………」
歯切れが悪い。
家族仲が良くないのかもしれない。
ますます仲間意識が芽生える。
「じゃあ、先輩も一緒にキャンプですね」
「キャンプ……?」
あ、思ってたことがうっかり口に出た。
浮かれてるって怒られる。
「ははっ、いいな、キャンプ。カレーとかドラム缶風呂とか」
どうやら火宮先輩も乗り気のようだ。
緊張で強ばった身体を緩ませ、私もうふふと笑う。
「お風呂用の水の持ち込みが大変そうですね。イカネさんに氷を出してもらって溶かしますか?」
「どんだけ時間かかるんだよ」
あははと笑い合っていると、イカネさんがひとこと。
「水も出せますよ」
「………イカネさん、万能だね」
「………有能だな」
私たち、無能同盟が落ち込むくらいに、私の式神は有能すぎた。
「てことは、初めからお湯を出したりとかも……?」
「それは出来かねます」
「出来かねます!?」
イカネさんからお断りの言葉が出てくるとは思わなかった。
何でもできると思ってたから、一瞬言葉の意味がわからなくなったほどだ。
「俺の刀を溶かしたのは、火の術じゃなかったのか」
「あれは、金属に霊力を通して物質の形を変えたものでしょう。同じようにわたくしの神力を流せば形を変えることも容易かと」
彼女には火の術は使えない。
少しだけ、自分が誇らしくなった。
足りないものを補い合える仲に。
私がイカネさんの出来ないことをできるようになってやる。
私の決意に呼応するかのように、焚き火が少し大きくなった。