まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
火宮陽橘から売られた喧嘩を買ったのが間違いだったのか。
でも、あの場でこの戦闘を回避する術はなかった。
遡って全ての原因といっても過言ではない、火宮桜陰の存在を否定したいとも思わない。
結局、今の私の実力が足りてなかったんだよなぁ。
先輩なら、こんな蔦切り刻んで駆け抜けて妹に一撃ぶつけられただろう。
私が変なプライドを捨ててイカネさんを呼んでいれば、こんな植物、雷で割いて氷漬けにしてくれたかもしれない。
全ては過ぎた事だ。
私はこのまま死ぬのだろう。
だけど、せめて一矢報いたい。
残された時間で何ができるかな。
全力の焚き火は弾かれた。
私の他の攻撃手段は?
考えると、火宮桜陰に教わったことはない技のイメージが頭の中に浮かんでくる。
その通りに術を行使した。
自身の肉体を霧のように変化させ、妹の後ろで再構成。
穴の空いた腹も元に戻し、彼女に向けた掌から大量の水を放出する。
「キャアァァッ!」
咲耶と周囲の悲鳴が重なった気がした。
水圧で結界の端まで吹き飛ばし、蔦は切り刻み消滅させる。
結界の中を水で満たした。
この中では、水中で呼吸することのできない彼女は、まともに術も使えないだろう。
この水は私の支配する空間。
私の思うままに変化する。
念には念をいれ、咲耶を渦に巻き込んでかき回す。
次に………。
「そこまで!」
いきなり結界が解除され、水が四方に流れ出る。
周囲の人達の多くは流されて大広間の外へ。
渦が消えて横たわる咲耶に駆け寄った火宮陽橘が、彼女の背中を叩いて水を吐き出させる。
「……っ、ゲホッ、……かはっ、……………ゴホゴホッ」
「咲耶………」
彼はぐったりする咲耶を抱いて、私を睨みつけてくる。
「お前! 咲耶が溺れ死ぬところだったんだぞ!」
「よく言いますね。私は腹に穴を開けられたというのに」
今は治っているけれど。
「おい、無事か!」
「あー。なんとかなりましたよっ!?」
火宮桜陰が私に駆け寄ってきて、正面から抱きしめてきた。
「せ、せんぱいっ!? どうしたんですか柄でもない」
抱きしめられるなんて慣れてないから小っ恥ずかしい。
「ほんとうに、無事なんだな、生きてるんだな!」
「はい。宣言通り、タダでは負けてやりませんでした」
だいぶギリギリでしたけど。
「馬鹿! 無茶しやがって、なんで式神使わなかったんだ!」
「だって、2対1になるじゃないですか。そんなのフェアじゃあない」
「馬鹿! 式神使いは式神を使う術師だから、躊躇わず召喚しろって教えただろ!」
「あはははは……」
さっきから、身体を触るのやめてもらっていいですか。
いや、わかるんですよ、怪我ないか本当に無事なのか確かめたい気持ちは。
でもほんとくすぐったい。
でも、生きてたから今こうして笑っていられるんだよな。
私が腹を貫かれた時の先輩の表情を思い出して、胸がギュッとなった。
『月海さん……』
「イカネさん……」
呼ぶと、すぐ側にイカネさんが現れる。
「わたくしがいれば、月海さんに怪我をさせることはありませんでしたのに……」
「イカネさんも、ごめん」
彼女も、先輩と同じくらい悲しい顔をしている。
二人に挟まれて説教されていると、火宮陽橘から凄まじい霊力が発された。