まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
「……どこで拾ってきた」
「学校だよ」
犬猫みたいに言わないでくれるかな。
「……君。陽橘のほうに乗り替える気はないか?」
「そうだ、そんな無能より、次期当主の僕のほうがいい」
龍は消したが火の鳥を侍らせたままの彼氏君が言う。
「咲耶はどうするんですか?」
「咲耶は正妻。お前は愛人にしてやる」
「………最低」
「咲耶が気に食わないなら、別れてもいい」
「……別れてもいいなら、なぜ毎日家に通って家族に挨拶してたのですか?」
決して仲のいい家族とはいえないけれど、昨日の家族の喜びの顔は覚えてる。
身勝手に不幸になればいいとは思わない。
「そんなの、生まれ変わりが欲しかったからに決まってるだろ。まさか、スサノオノミコトまで現れるとは思ってなかったんだ。知ってたらコノハナサクヤヒメより、スサノオノミコトを選んださ」
「陽橘!」
なかなかの暴言に現当主が止めに入る。
打算的な思いしかないのだろうが、それを言っちゃあいけない。
妹よ、かわいそうに。
スーパーウルトラ美少女でも、能力しか見られていなかったようですよ。
いや、外見を最大限利用してきた彼女のことだ。
望むところだったのかも。
「先輩、生まれ変わりって、そんなにいいんですか?」
「神の力がそのまま使えるって言っただろ。普通の術師が百人いても敵わない、貴重な戦力だ」
「だから、あの人は花嫁に欲しがったんですね」
「他四家への牽制にもなる。当人の実力はもちろんのこと、花嫁選びも大事なわけだ」
とりあえず、立派な家の跡継ぎは大変だと思った。
「………ン、んっ。話を戻して、スサノオノミコトの生まれ変わりよ。陽橘に乗り替える気はないか? 不自由ない暮らしを約束しよう」
次期当主の発言を無かったことのようにキリッとした顔つきの現当主の言う、不自由ない暮らしが報酬として。
能力だけを求められているのを聞いて、はいそうですかとなるかな。
というか、いまだに私がスサノオノミコトの生まれ変わりの実感はないけど。
違和感はなくもないし、そうなのだとして、私の答えは決まっている。
「お断りします。私は、こちらの桜陰さんにつきます」
「だ、そうだ」
私の肩を抱き、ニヤリと笑う火宮桜陰に、周囲は怯えた。
この瞬間、火宮桜陰は強い駒を手に入れたことになる。
散々馬鹿にしてきた彼からの報復を恐れるのは自然のこと。
私の力の一端は見せた。
それに敵う者はいないのだろう。
相性だけでも、火よりも水が強い。
「これ以上ここにいても時間の無駄だ。帰るぞ」
「了解」
踵を返す火宮桜陰に、私とイカネさんがついていき、そのまま先輩の部屋へと戻った。