まじないの召喚師 ー生まれ変わりの花嫁ー
焚き火を囲んで各々がマシュマロを焼く。
話題はもっぱら、人の姿を得た美少年だ。
「家の前で倒れてた所を俺が拾ったんだよ」
「ご主人様にひろわれたんだよ。そして、あったかいごはんをくれて、あったかいおふとんでいっしょにねてくれたんだ」
「へぇー」
火宮桜陰は、自身に寄り掛かるように座る美少年へ焼きたてのマシュマロを食べさせる。
犬に与えるのは控えていたので、初マシュマロだ。
甘さにほっこりしたのか、とろけるような顔をして、己が焼いたマシュマロは火宮桜陰の口へ持っていく。
彼もまた、それを食べる。
「おいしい?」
「美味しいよ」
付き合いたてのカップルか。
忠犬はたいそうご満悦のようで、ふくよかな尻尾がぶんぶん揺れている。
動物には優しいんだよな、この大魔王は。
「羨ましいんですか?」
彼らをじっと見ていたからか、イカネさんがふくれている。
そんな顔もかわいい。
「月海さん、はい、あーん」
金髪翠眼の美女が焼きたてのマシュマロを向けてきた。
美麗なスチルのような光景に脳内大歓喜。
「もしかして、わたくしのは食べていただけないのでしょうか……」
「ああ、そんな悲しい顔をしないで。イカネさんが綺麗すぎて、キャパオーバーだっただけだから」
引っ込みそうになるイカネさんのマシュマロにかぶりつく。
「……うん、おいしい」
「うふふ、よかったです」
「世界一、美味しいよ」
「まぁ、月海さんったら……」
「おいそこ! みせつけてくんな!」
また火宮桜陰の邪魔が入る。
「さっきまでの己の行動を振り返って、もう一度どうぞ」
「…………ちっ、あれは違う」
「どう違うというのでしょう。契約者同士が互いの愛を確認しているのです。口出しは無粋というもの」
「………こいつは契約者じゃない」
そう言われた瞬間の、美少年の落ち込みようはすごかった。
耳と尻尾は力なく垂れ、この世の終わりのような顔である。
「契約、してしまわないのですか?」
イカネさんの質問に、火宮桜陰は首をふった。
「俺には、無理だ」
「あら、こんなに懐いているんですもの。無理なんてことはないでしょう」
イカネさんの言葉に、美少年は期待の眼差しになる。
対する火宮桜陰は悔しそうな顔をしていた。
「従えられるだけの霊力が足りないんだよ」
「そんなもの、必要ありません」
「必要ないって……」
「無理矢理従わせるから膨大な霊力が必要になるのです。すでに懐いているこの子なら、貴方の一般人に毛が生えた程度の霊力でも事足りますわ」
うふふと笑うイカネさんから圧を感じる。
「…………」
「…………」
「…………」
「………………わかった」
「やった!」
長い沈黙の後、キラキラした目で見つめる美少年に、火宮桜陰は負けた。
もとより、動物には優しい大魔王様だ、勝てるはずもない。
彼は、元気を取り戻した美少年がとびかかろうとしたところを片手で制する。
「勘違いすんなよ。契約できる保証はないんだ。試してみて、駄目なら諦めろ」
「大丈夫だよ、絶対成功する。これでご主人様は本当のご主人様だ」